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帰還

きりのよいところまで毎日投稿できるように頑張ります。

もう少しで第一章完結です。

 翌日は、怒涛の展開の連続だった。


 明け方、ぐうぐうと鳴り続ける腹の虫を川の水で無理やり黙らせてから、馬に乗って、一路大森林を目指す。


 ライカは丸二日間、何も食べていないので、かなり辛そうだった。


 途中、川沿いにベリーの木を発見した時は、二人で小躍りして喜んだほどだ。


 大森林に着いたのは、ハウンドが予想したとおり、その日の午後。


 うろ覚えの記憶を頼りに、ライカ救出作戦のスタート地点である丸太小屋を目指した。


 馬から降りて丸太小屋に近づくと、扉が乱暴に開け放たれて、留守番をしていたおっさんと森人の二人が、文字通り、転がり出てきた。


「お嬢!? お嬢ぉぉぉ!」


 おっさんは驚きのあまりまともに立ち上がることができず、這うようにしてライカのもとに辿り着くと――――雛鳥を包み込むように両手でライカの手を握り、男泣きに泣いた。


「よかった……。本当に無事で良かった……。明日の朝までに戻らなかったら、どうしようかと……。戻ってごながったら、集落の皆に何て説明すればいいのがって……」


「ごめんなさい。心配をかけてしまって……」


 ライカもつられて涙ぐんでいる。


(どうせ、ボルゾイと会ったら大泣きするんだから、今、泣かなくてもいいのに……)


『ううっ……。そういう問題じゃ……ないでしょうが』


(お前も泣いてんのかよ……)


 呆れながらライカとおっさんの二人を眺めていると、後ろからもう一人、おっさんと一緒に留守番をしてくれていた森人が歩み寄って来た。


「覇王丸殿。心より感謝いたします。本当にありがとうございました」


 そう言って、深々と頭を下げる。


 まるで里長のボルゾイに対するものと同じか、それ以上の敬意が込められた態度と言葉使いになっている。


「そんな畏まらなくてもいいんだけど……。ところで、森人の集落の方はどうなってる?」


「監視を続けておりますが、今のところ目立った動きはありません。ただ、明日が指定された期限の三日目ですので、もしかしたら――――


「そうだな……。多分、大丈夫だとは思うけれど」


 注意するとしたら、サルーキが意識を取り戻した後、復讐心に駆られて後先考えずに攻め込んでくる可能性くらいだろうか?

 だが、その可能性さえ、限りなくゼロに近い。


 諸々の事情を鑑みれば、オターネストの魔王軍には、もう大森林にある小さな獣人の集落にちょっかいを出すだけの余力は、残っていないからだ。


「多分だけど、もう、魔王軍はやって来ないと思うぞ。森人の集落にいる連中も何日かすれば引き揚げるはずだ。ただ、念のために、監視だけは続けてくれ」


「畏まりました。この命に代えましても」


「だから、畏まるのは止めろよ」


 俺が嫌そうに顔をしかめると、ようやく落ち着きを取り戻したらしいおっさんが、真っ赤になった目を擦りながら、口を挟んできた。


「何を言ってるんだ? お前が、お嬢を無事に連れて帰ったら勇者として崇めろと、俺たちに言ったんだぞ?」


「そうだっけ? じゃあ、無しの方向で頼む」


「お前も大概、いい加減だな……」


 お前らしいよ、と。おっさんは苦笑するが、全然、褒められている気がしない。


『全然、褒めてないですから』


(うるさい)


 俺は馬の手綱を森人に預けて、ライカに手招きをした。


「何ですか?」


 ライカはぱたぱたと尻尾を揺らしながら、小走りで俺の隣にやって来た。


「おっさんとの感動の再会はもう十分だろ?」


「え? あ、えーと……」


 俺の質問に、ライカは戸惑った様子で、俺とおっさんを見比べる。


 ここで頷いてしまうと、おっさんに悪いのではないかと気を遣っているようだ。


 それを察したのか、おっさんはライカに向かって「いいよいいよ」と手を振った。


「俺はもう十分だから。早く、ボルゾイ様のところに連れて行ってあげてくれ」


「これ以上は涙が勿体ないからな」


「お前、ちょっと酷くない?」


 おっさんは憮然とした表情を浮かべたが、特にそれ以上、俺と言い合いをするつもりは無いようだ。


 だが、俺とライカが移動しはじめたところで、再び呼び止められた。


「あ、おい。そういえば、ハウンドの奴はどうしたんだ?」


「ああ、あいつは……。遠くに行っちまったよ」


「え?」


「最後の言葉は「そろそろ行くぞ、じゃあな!」だったはずだ」


「どういうことだよ? あいつ、死んだの?」


「詳しいことは、後で説明する」


 元市長のことを説明すると時間がかかってしまうので、俺はかなり省略して真実を伝えた。


『本当に嘘を吐いていないところが、悪質すぎる』


 ちなみにおっさんの誤解は、俺たちがいなくなった数時間後に、まさかの本人帰還で無事に解けたらしい。


 おかげで、後日、俺はおっさんからネチネチと説教をされる羽目になった。

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