回復薬を飲もう
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執務室を出て、長い廊下を走り、階段を駆け下りる。
建物の中には、魔王軍の兵士の姿は無かった。
どうやら、本当に総出で消火活動に当たっているようだ。
一階の突き当りにある備蓄倉庫の扉を開くと、室内には大量の武器や穀物の他に、木箱が所狭しと積み上げられていた。
「これ、全部、回復薬か?」
その数は百や二百ではきかない。
ためしに適当な木箱をこじ開けると、中には見覚えのある瓶の容器が、おがくずと一緒に詰め込まれていた。
「恐らく、港の倉庫や、商店の売り物まで、都市中の在庫をかき集めたのだろう」
元市長が呆れたように呟いた。
(ひと箱につき三十本として……。全部で何本あるんだ?)
『百箱として三千本。千箱なら三万本ですね』
つまり、極論すると、延べ三万人の魔王軍の兵士が、たとえ大怪我をしても、ごく短期間のうちに戦線に復帰できるだけの回復薬が、此処に存在していることになる。
これではどんなに人類軍が数で押し込んでも、戦局が大きく動くはずがない。
(これは、後で何とかしておかないとマズいな)
ひとまず、俺は木箱から回復薬を取り出すと、それをハウンドに放り投げた。
「飲んでいいぞ」
「マジでか!?」
「そういう約束だっただろ」
実際、今回の作戦でハウンドが果たした役割は大きい。
というか、ハウンドがいなければ、成功しなかったと言っても過言ではないほどだ。
「遠慮せずに飲め」
「ありがてぇ! いただくぜ!」
ハウンドは歓喜の表情を浮かべて、回復薬を一気にあおった。
「ぷはっ! これでもう安心だな!」
「いや、まだ分からないぞ」
そう言って、二本目の回復薬をハウンドに手渡す。
「念のために、もう一本、飲んでおけ。お前に、もしものことがあったら困るからな」
「は、覇王丸……。お前って奴は……」
ハウンドは感動して涙ぐみながら、二本目の回復薬も一気にあおった。
「ぷはぁっ! これで完全に大丈夫だろ!」
満面の笑みを浮かべるハウンド。
「良かったですね」
つられて満面の笑みを浮かべるライカ。
そして――――
「良かったな」
俺は満面の笑みを浮かべながら、三本目の回復薬を差し出した。
「飲め」
『パワハラやめろ!』
山田に怒られた。
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