オズ
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「誰だ……? 貴様、フランツか! なぜ、此処にいる?」
サルーキの安否を確認するためか、肩で呼吸をしながら戻ってきたオズは、俺たちを見るなり声を荒げた。
「フランツ? 誰のことだ?」
「私だよ!」
元市長が信じられないものを見るような顔をして、俺の顔を覗き込んできた。
「なんで!? 魔王軍でさえ覚えているのに。最初に名乗ったじゃないか!?」
「そうだったかな……」
正直、優先順位最下位の奴の名前など、どうでもいいので気にも留めなかった。
「まさか、そいつも連れて行くつもりか?」
「駄目なのか?」
険しい表情で尋ねてくるオズを、俺も険しい表情で睨み返す。
「どうしても駄目なら……」
「ちょ、簡単に妥協しないでくれたまえっ! というか、早すぎるだろっ!」
小声でせっついてくる元市長を無視しつつ、俺はライカを背中に隠すように移動した。
オズの魔法は脅威だが、不意打ちにさえ気をつければ、俺かハウンドのどちらかが対処できる。
「……勝手にしろ。我々は負けたのだ。貴様のすることに口は挟まん」
オズは忌々しそうに俺を睨み付けていたが、吐き捨てるように返答した。
「それよりも、さっさと脱出したらどうだ? ご希望のとおり、今、部隊が総出で消火活動に当たっている。通りを人間が走っていたところで、誰も気に留めんぞ」
「ああ、そうさせてもらう。その前に――――」
俺はオズに質問した。
「おっさんが言っていたんだけど、回復薬って備蓄倉庫にあるのか? 腕の怪我を治したい」
そう言って、サルーキに剣でやられた左腕の傷口を見せる。
オズはため息をつくと、執務机の引き出しから鍵を取り出した。
「倉庫の鍵だ。好きなだけ持って行け」
「何だよ。随分と気前が良いじゃないか」
まるで、この後のことなど、どうでもよいと考えているようにさえ感じる。
(まあ、サルーキは百パーセント失脚するだろうけどな)
魔王軍の軍規については分からないが、敵の侵入を許し、あまつさえ一騎打ちで敗北したとなれば、最悪の場合、処刑もあり得るだろう。
オズも連帯責任になるかも――――というか、逃走の手助けをしているので、多分、オズの方が重罪だ。
(サルーキに心酔していなければ、使えそうな奴なんだけどな……)
今後のことを考えれば、魔法を使える仲間は欲しいところだ。
もし、ほんの少しだけ巡り合わせが違っていたら――――
こいつらが人類と同じ方向を向いて戦う「今」があったのだろうか?
「お前らが魔王軍についたのは、人間に差別されたのが原因か?」
「……なぜ、そのようなことを聞く?」
「別に。興味本位だよ」
「……」
オズは数秒ほど瞑目していたが、やがて、目を開け、口角をつり上げた。
露悪的に。同情されるのは御免だと言わんばかりに。
「思い違いも甚だしいな。こちらの大陸ではどうか知らんが、トレンタ大陸は獣王様のお膝元だ。我らの始祖が魔王軍に与する以上、眷族である我らが道を同じくするのは当然のこと。獣人が人間と相容れることなどあり得ん」
「そっか」
俺は左手でオズから鍵を受け取ると、右手の拳を握りしめた。
「じゃあな」
オズは――――まるで殴られることが分かっていたかのように、避けようとはしなかった。
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