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脱出する絶好のチャンス

きりのよいところまで毎日投稿できるように頑張ります。

「あの……。ハウンドはどうして覇王丸さんに協力を?」


 二人きりになったところで、ライカが俺の服を引っ張り、尋ねてきた。


サルーキに連れ去られた時から情報が更新されていないライカには、内通者であるはずのハウンドが当然のように俺の指示に従っていることが不思議でならないのだろう。


「心を入れ替えたんだ。あいつは……もうすぐ死ぬから」


「え!?」


「具体的には、明日、血を吐いて死ぬ。余命一日だ」


 俺は裏切り者に白タマゴタケを食べさせた時のくだりを、簡単に説明した。


「そ、そうでしたか……。そんなことが」


「昨日まで、あいつは下痢だったんだ。だから、近づくと臭いし、触ると汚いぞ」


『訴えられますよ』


 俺が本人不在をいいことにハウンドの尊厳を傷つけまくっていると、そんなことは露ほども知らないハウンドが戻ってきた。


しかも、一人ではない。


「覇王丸くん! サルーキを倒したと聞いたが……! おお! これは凄い!」


 ハイテンションな元市長も一緒だった。


元市長は鼻息を荒くしながら倒れているサルーキに駆け寄ると、顔を覗き込んだり、指で突いたりしている。うざい。


「なんで連れて来たんだよ?」


「いや、なんか、このままだと忘れそうだったから。……わりぃ」


 ハウンドも内心では連れて来たことを後悔しているのだろう。申し訳なさそうに謝った。


「見張りは?」


「そっちは問題ない。お前の言ったとおり、サルーキが激怒しているって言ったら、真っ青になって走って行ったよ。今頃、他の連中にも声を掛けているはずだ。もうじき、この辺は誰もいなくなるぜ」


 それはつまり、オターネストを脱出する絶好のチャンスだということだ。


「火事の方はどうなってる? 順調か?」


「そうだ! 私はそれを聞きたかったのだ!」


 ハウンドの質問に、元市長が横から割って入ってきた。


「隣の部屋の窓から、黒い煙が見えた。今、オターネストでは何が起こっているんだ?」


「火事が起こっている」


 俺は元市長に火事場泥棒作戦(命名)の概要を説明した。


「な、君は何ということを……!」


「全員で無事に脱出するためだ。家の一軒や二軒は諦めろ」


「しかし、町には追放されていない住人もいるのだぞ? 彼らが逃げ遅れでもしたら……」


「ちゃんと、無人の建物に火を点けるように指示を出した。だから、近くの建物で酒を飲んで居眠りでもしていない限り、逃げ遅れる奴はいない」


 そして、魔王軍に占領されている状況で、明るい時間から酒を飲むような奴もいないだろう。


そんな豪胆な奴がいたら、真っ先に追放されているはずだ。


「そんなわけで、火事については割り切ってくれ」


「うーむ……。しかし……。いや……。やむを得ない……のか? うーん……」


 元市長は頭を抱えて懊悩しはじめた――――かと思ったら、俺の頭を二度見して、十八番の顔芸を披露した。


「君、頭の角は!? どうしたんだね!?」


「そんなものは最初から無い」


「え? 君、実は人間だったのか!?」


 俺のカミングアウトに、目を丸くする元市長。


「騙された!? ――――いや、あえて騙したんだね? 私が助けるに値する人間かどうか、試したんだろう?」


「いや、そういうわけじゃ……」


「そして、私は見事に君の期待に応えた! そういうわけだね? さすが、わた――――


 元市長は最後まで喋ることができず、背後からハウンドに取り押さえられ、手で口を塞がれた。


「おっさん、頼むから静かにしてくれ」


「もう、こいつは地下牢に送り返そう」


「……むぅ! むぅ!」


 必死の形相で首を横に振る元市長。


「じゃあ、静かにしているか?」


「……! ……!」


 必死の形相で首を縦に振る元市長。


恥も外聞もない。


「……私、これでも伯爵なのに。執政官なのに……誰も敬ってくれない」


 ハウンドから解放された元市長は酷く落胆していたが、誰にも慰めてもらえなかった。


 そこに、オズが戻ってきた。

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