勿論、やってくれるよな?
きりのよいところまで毎日投稿できるように頑張ります。
「ライカ、さっき渡したナイフをちょっと貸してくれ」
「え? ……あ、はい。どうぞ」
俺の発言から何か不穏なものを感じ取ったらしく、ライカは躊躇いながらもそっとナイフを差し出してきた。
「おい。そんなことをして、どうするつもりだ?」
ハウンドも、ライカと同じく不穏なものを感じ取ったようだ。
だから、俺の返答を聞いても驚くことはなかった。
「念のために、トドメを刺しておこうかと思ってさ」
「なっ!?」
ハウンドの代わりに、拘束されているオズが声を荒げた。
「よ、よせっ! もう、勝負はついたはずだ!」
「でも、こいつは俺を殺そうとしたじゃないか」
俺はお前を殺すけど、お前は俺を殺すなというのは、理屈が通らない。
「それに、敵の司令官は殺しておいた方がいいと思うんだよな」
「やめろ! やめてくれっ! 命だけは……」
オズは、ハウンドに取り押さえられているにも関わらず、その場に土下座せんばかりの勢いで、前のめりになって懇願した。
首に突き付けられている刃物も、まったくお構いなしだ。
(こりゃ、相当、サルーキに入れ込んでいるな)
もし、代わりにお前の命を差し出せと言ったら、本当に自害してしまうかもしれない。
俺としては、オズの忠誠心を確かめたかっただけなので、すぐにナイフを引っ込めて、ライカに返した。
「それなら、交換条件だ。俺たちがオターネストから脱出するのを、お前も手伝え。そうすれば、こいつを殺すのは勘弁してやる」
「ほ、本当か!? それならば、私がお前たちを城門まで先導する。配下の兵士には、一切の攻撃をさせない。それでいいか!?」
「駄目だ」
俺は首を横に振った。
その方法では、俺たちをサルーキから引き離してしまえば、いつでも裏切ることができる。
「で、では、どうすれば……」
「お前、魔法で空を飛ぶことはできるか?」
たしか、飛翔魔法というはずだ。
俺がボルゾイたちの前で、この世界に転移してきた経緯を(虚実を織り交ぜて)説明した時、要人である森人の一人が、そんな言葉を口にしていたのを覚えている。
「飛翔魔法か? 使えるには使えるが……。お前たちを抱えて、順番に城壁の外に運べばいいのか?」
「それだと、高いところから落とされるかもしれないし、外に運ぶと見せかけて、部下のいる場所に連れて行かれるかもしれない。信用できない」
「くっ! では、どうすればいい!?」
俺が左右に首を振ると、オズは明らかに焦った様子で代案を考えはじめた。
このままでは、俺の気が変わってしまうのではないかと、不安で堪らないようだ。
『気持ちは分かる』
(うるせー)
俺は不安げなオズを安心させるように、笑顔で話しかけた。
「お前、炎の魔法を使えるよな? ――――で、飛翔魔法も使えると」
「あ、ああ……」
「じゃあ、話は簡単だ」
俺は窓の外を指さして、オズに命令した。
「ちょっと、町のあちこちに火をつけてこい」
『ほ、放火魔だぁぁぁ!』
俺の言葉を受けて、オズは目を丸くし、山田は絶叫した。
酷い言いざまだが、策の良し悪しで言えば、決して悪くない作戦だと俺は思っている。
「別に、町を火の海にしろと言っているわけじゃない。俺たちのことなんか構っていられないくらいの非常事態を起こせばいいんだ。火事場泥棒なんて言葉もあるくらいだからな」
自分たちが拠点にしている都市のあちこちで火災が発生すれば、魔王軍は総出で消火活動にあたるだろう。
その際、追放されずに都市に残っている人間も駆り出されるはずだ。
つまり、閑散としていた通りは、一時的に多くの魔王軍と人間が行き交う場所になる。
「俺たちは、そのどさくさに紛れて脱出するってわけだ。良い作戦だろ?」
勿論、やってくれるよな?
俺が満面の笑みを浮かべて説得(脅迫)すると、オズは引きつった顔で頷いた。
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