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ただのフェイントだぞ

きりのよいところまで毎日投稿できるように頑張ります。

 喜びも束の間。


『覇王丸さん! 避けてください!』


「っ!」


 山田の警告がなければ、危なかったかもしれない。


 異常を感じて振り返った俺の眼前には、視界を塞ぐほどの炎が迫っていた。


「うおっ!」


 俺は咄嗟に肩にかけていた熊の毛皮を掴み、それを振り払って炎をかき消す。


「あっつ!」


 直撃は免れたが、指を火傷してしまった。


熊の毛皮も焼け焦げてしまっている。


 燃え盛る炎を飛ばしてきたのは、言うまでもなくオズだった。


(そういえば、こいつがいたんだった)


 サルーキとの戦闘に没頭しすぎて、すっかり忘れていた。


「貴様……。よくもサルーキ様を!」


 しかも、ブチ切れているようだ。


(さっきのあれが直撃したら、サルーキに殴られるよりもマズそうだな)


 たしか、全身の皮膚の何割かが火傷をすると、致命傷になるという話を聞いたことがある。


『三割くらいが生死の境目だったはずです。でも、覇王丸さんならもっといけますよ』


(限界に挑戦するつもりは無い)


 俺は油断なくオズを睨み付けながら、魔法で攻撃された場合の対処法を考えた――――が、さっぱり分からない。


魔法に関する知識が無いのだから、当然と言えば当然だ。


(左右のどちらかに避けて、一気に間合いを詰めるか? でも、万が一、マシンガンみたいに連射されたら完全にアウトだぞ)


 そんなことを考えていると、視界の隅でコソコソと動く人影に気が付いた。


「許さんぞ。消し炭にしてやる……」


 狂気すら孕んだ視線で俺を睨み付けるオズが、俺に向かって腕を差し出した時――――


「そこまでだ」


「っ! 貴様……!?」


 白目を剥いて倒れていたはずのハウンドが、こっそりとオズの背後から近付き、その首元に刃物を突き付けていた。


「遅いぞ」


「うるっせぇ! お前、本気で殴りやがって!」


 俺からのクレームに、ハウンドは憤慨した様子で反論する。


「殴られるって分かっていたから、歯を食いしばって耐えられたけどなぁ! 本当に気絶するところだったんだからな!」


「何だと? 貴様、最初から我々を騙していたのか!?」


「おっと、動くんじゃねぇ。少しでも変な真似をしたら殺すぞ」


 ハウンドはオズの質問には答えず、刃物の先端を少しだけめり込ませた。


皮膚が裂け、血が滲み出る。狐の体毛が赤く染まる。


 オズは悔しそうに歯を食いしばり、抵抗をやめた。


 あの時、俺がハウンドを殴ったのは、怒りで逆上したからではない。


 敵の注意を俺に引き付けることで、ハウンドが不意をついて動けるようにするためだ。


(身長二メートルの大男がすぐ近くで怒り狂っている最中に、白目を剥いて気絶した奴にまで注意を払う奴はいないからな)


『そりゃそうですね』


 本来は、ライカを救出するための布石だったが、予定とは違う形で功を奏してくれた。


「よくも卑怯な手段でサルーキ様を……!」


「卑怯? あんなもの、ただのフェイントだぞ?」


 呻くように怨嗟の声を漏らすオズに、俺は真顔で言い返した。


「フェイント……だと?」


「そうだ。攻撃が効いていないのに、効いているふりをした。立派なフェイントだ」


「ふざけるな! そんな理屈が通用するか!」


「そんなことを言われても、結果がすべてだからな」


 俺だって、敵に無防備な背中を晒すという最大級のリスクを背負っていたのだ。


「あの時、すぐにトドメを刺さなかったサルーキが悪い。油断なんかしているから騙し討ちに遭うんだ」


『騙し討ちって、自分で認めちゃってますよ!』


 思わず本音が出てしまった。


 まあ、怒らせるためとはいえ、何度も卑怯者と連呼していたから、まさか言っている本人が騙し打ちを仕掛けてくるとは、夢にも思っていなかっただろう。


(俺を怒らせた奴はこうなる)


『恐ろしい……』


「おいっ! くだらない話をしてないで、さっさとずらかろうぜ」


「おっと、そうだった」


 ハウンドの声で我に返った俺は、急いでライカに駆け寄った。

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