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尋問 その三

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です。

「……そういえば、お前は我々に捕らえられた獣人の少女を救出するために、やはり、単身でこの街に乗り込んできたのだったな」


「まあな」


 厳密には単身ではなくハウンドも一緒だったのだが、わざわざ訂正する必要は無いだろう。


「あの時の少女は、今も元気にしているか?」


「つい最近、俺と結婚したぞ」


「結婚を? …………そうか」


 そうだったのか。


 おめでとう、と。


 お互いの立場を考えれば、言う筋合いも、言われる筋合いもない祝福の言葉だが、それでも声に出して呟いたのは、皮肉でも、お世辞でも、社交辞令でもなく、他ならぬ自分自身を納得させるためだったのかもしれない。


 七番の獣人からは、先程までの警戒が嘘のように消えてなくなっていた。


 どうやら、俺の言葉が嘘や冗談ではないと、信じてくれたようだ。


「お前のことが、なんとなく分かった。……我々のことを解放してくれるのか?」


「まあ、そうだな。ただ、さっきも言ったとおり、全員は無理だぞ」


 全員の身柄を無事に引き渡して、背中を向けた途端に攻撃されたのでは堪らない。こちらの安全を確保する意味でも、一定数の獣人には人質として残ってもらう必要がある。


「それに、ぶっちゃけ、魔王軍の出方も分からないからな。罠だと決め付けて話を聞いてくれない可能性もあるし、そういう意味では、お前らだって安全なわけじゃないぞ」


 他にも考えられるのは、魔王軍が既に捕虜になった獣人部隊を見限っているケースだ。


 その場合は、捕虜(人質)がいるから攻撃されないという考えそのものが、命取りになる。不意を衝かれて海の藻屑にならないためにも、あらゆる事態に備える必要があるだろう。


 そのことを伝えると、七番の獣人は思案顔になって何事かを考えはじめた。


「……一つ、確認したいのだが」


「何だ?」


「獣王様が戦闘に敗れて、我々を見捨てて逃げたというのは本当のことなのか?」


「最終的にどっちが勝ったのかって話なら、間違いなく俺が勝った。そして、負けた獣王が逃げたのも本当だ。――――けど、頭の中でどう思っていたかまでは分からない」


 そのあたりは「見捨てた」の定義によるだろう。


 あの時の獣王は、後一歩で死ぬところまで俺に追いつめられており、逃げる以外の選択肢が無かったことは確かだ。


 だが、部下を置き去りにして逃げることに対して、ほんの少しでも後悔、慙愧の念、忸怩たる思いがあったのであれば――――それは本当の意味で「見捨てた」ことにはならないのかもしれない。


(まあ、気休めだけど)


『そんな感じではなかったですよね』


 当時、副官だったフィオレに体を支えられて逃げる直前の獣王の心には、俺に対する怒りと恐怖しかなかったように思える。


 また、形勢が逆転する前の、獣王が圧倒的に優勢だった時のやり取りを思い返してみても、部下のことを気にかけるような発言は、ただの一度も耳にすることはなかった。


 その点については、隊長格だったという目の前の獣人もよく理解しているようだ。


「我々に気を遣わなくてもいい。獣王様は部下の安否を気にかけるような方ではない。それよりも、敗北したことの方が重大なのだ」


 七番の獣人は自嘲気味に呟き、困ったふうに顔をしかめた。


「しかし、だとすると……。獣王様は、我々が戻ることを望まないかもしれない」


「ああ、そういう可能性もあるのか」


 捕虜になった獣人たちは、言わば獣王敗戦の生き証人だ。しかも、戦場に置き去りにされたというオマケ付き。彼らの帰国は、獣王にデメリットしかもたらさないだろう。


 もしかしたら、難癖を付けて、捕虜の引き渡しを拒絶してくるかもしれない。


 あるいは、万感の思いで帰国した捕虜たちを、口封じのために投獄するかもしれない。


「――――まあ、そういう不安要素も込みで、それでも故郷に帰りたいって奴がいるなら、そいつらをまとめてほしいんだ。こっちとしては、本当に食いぶちを減らしたいだけだから」


 勿論、本当は別の思惑もあるのだが、そこを説明する必要は無い。


「……分かった。ならば、同胞たちに説明する場を設けてほしい。そこで希望者を募る」


「あいわかった。本日中にでも、話し合いの場を用意しよう」


 シャロムが七番の獣人の要望を快諾したことで、ひとまず、俺がオターネストに足を運んだ目的の半分は達成した。


 残りの半分は、獣人国に潜入するハウンドのための情報収集だ。

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