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尋問 その二

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です。

「簡単に言ってしまえば、時勢の問題です」


 シャロムはそう答えると、七番の獣人に向き直った。


「このオット大陸では、獣人は昔から差別されていたのだ。原因は数の少なさと……やはり、見た目だろう。トレンタ大陸のように、獣人たちの絶対的な王も、寄る辺となる国家も存在しなかったため、彼らは辺境に集落を作り、人目を避けるようにして暮らすしかなかった」


 シャロムが語る歴史は、俺がボルゾイなどから聞きかじり、なんとなく「そうだろうな」と思っていた歴史と、一致していた。


「オット大陸をほぼ席巻している宗教が、獣人という種族そのものを、魔王軍に与していると断罪し、敵視していたことも大きな原因の一つだ。信仰によって偏見が正当化され、獣人への差別は「当たり前のこと」になりかけていた」


「ならば、なおのこと我々を処刑しない理由は無いはずだ」


「まあ、待ちなさい。時勢の問題だと言ったはずだ」


 話を最後まで聞くように、と。


 結論ありきで話す七藩の獣人を、シャロムは窘めた。


「その宗教が、つい最近、見解を変えたのだ。それはもう、清々しいほど正反対にね。不当な差別を招いたと、事もあろうか自分たちの誤りを認めて、謝罪までした。これがどれほどあり得ないことか、君にも想像ができるはずだ」


 トレンタ大陸にも宗教はあるだろう? と。


 シャロムは七番の獣人の顔を真っ直ぐに見つめながら、同意を求めた。


 一方、俺もそこまで説明を聞けば、だいたいの事情を察することができた。


「この国を席巻する宗教が、獣人への差別を止めるようにと公式見解を出した直後に、いくら魔王軍に与しているとはいえ、国が大量に獣人を処刑するのは体裁が悪すぎる。どんな理由があろうと、獣人だから処刑したのだと思われてしまえば、それまでだからね。故に、我々には最初から君たちを処刑するという選択肢は無かったわけだ」


 そして、シャロムは七番の獣人の視線を誘導するように、俺の肩をポンポンと叩いた。


「そのきっかけを作ったのが、ここにいる勇者殿だ」


「……この男が?」


 七番の獣人は意外そうな顔をして、俺を見た。気のせいかもしれないが、俺に向けられる視線が、ほんの少しだけ変わったように思える。


「彼は、ほぼ単身で一大宗教の聖地に乗り込んで、獣人への不当な差別を止めるようにと、法王に直訴したらしい。これは、例えるなら、君が獣王や魔王に「間違いを正せ」と進言するようなものだよ。もし、それを無茶苦茶だと思うなら、君も、私も、残念ながらただの凡夫ということなのだろうね。細かな経緯については知らないものの、誰もが不可能だと思っていたことを、彼は成し遂げてしまったのだから」


 シャロムは随分と俺を持ち上げているようだが、その件に関しては本当に無茶な要求を押し通したとしか思っていない。


 ただ、小さな水のうねりが、大きな津波になるように。


 小石の崩落が、土砂崩れを引き起こすように。


 いろいろなものを巻き込んだ結果、幾つかの偶然も重なって、動かないはずの山が動いたというのが実際のところだ。


 そういう意味では、周囲を否応なく巻き込む「勇者」の肩書きに、俺も助けられたということになるのだろう。


「皮肉なものだろう? 君たちの王を撃退し、君たちが投降せざるを得ない状況を作り出した最大の敵が、間接的にではあるが、君たちの命を救った恩人でもあるのだから」


「……」


 恐らく、言葉では言い表せないくらい複雑な感情が、胸中に渦巻いているのだろう。


 七番の獣人は沈黙したまま、じっとシャロムの話に耳を傾けていたが――――


 やがて、何かを思い出したように、顔を上げて俺を見た。

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