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燃えカス

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

 剣の岬の対岸は、大小幾つもの街が点在する平野になっている。


 魔王軍に侵攻される前は、この地域もオット大陸のように複数の国に統治されていたのだろうか?


「ん? この奥にある森って……」


「水源の森ですね」


「竜の口から、あまり遠くないところにあるんだな」


 これは予想外だった。


 水源の森については、どんなに急いでも竜の巣から数時間はかかるという情報が頭にあったので、トレンタ大陸の奥地にあるものだと思い込んでいたが――――


「オット大陸から近い所にあったのか」


「ちなみに、オース海峡と水源の森の中間にあるこの国が、獣人の国ですよ」


「マジかよ」


 これも、完全に不意打ちの新情報だ。


 獣人国ベスティア。


 統治しているのは、勿論、獣人の王である獣王だ。


 山田の説明によると、この獣人国ベスティアが魔王軍と同盟を結んだことにより、オース海峡周辺の戦力バランスは大きく崩れ、魔王軍は瞬く間に人類の統治する国を攻め落とし、周囲一帯を平定してしまったのだという。


「神聖教会の使節団が、獣人部隊の襲撃を受けて壊滅した事件があったんですけど、覚えていますか? それと、ちょうど同じ時期ですよ」


「生き残ったはずの枢機卿が、実は変装した魔人だったやつだろ?」


 神聖教会の聖地で起きた一連のゴタゴタについては、まだ記憶に新しいので覚えている。


「魔王軍って、潜入工作みたいな搦め手も使ってくるよな」


「戦争ですからね」


 だが、その一方では、数に物を言わせた力押しの物量作戦を竜の巣に仕掛けたりもしているので、やっていることがちぐはぐな印象だ。


 多分、作戦を担当する指揮官の性格が表れているのだろう。


「オターネストを占領していた獣人部隊って、第二方面軍だったっけ?」


「第二……だったですかねぇ? 誰か、そんなことを言っていましたっけ?」


 四大貴族の一人、赤髪侯ヴォルカンの指揮していた第一方面軍は、竜の巣との戦闘で甚大な被害を受けて、活動規模を縮小していたはずだから違うはずだ。


 神聖教会に潜入工作をしたり。


 獣人部隊に海を泳いで奇襲を仕掛けさせたり。


 オット大陸への侵攻を任されている四大貴族は、なかなか厄介な性格をしているようだ。


「まあ、それはそれとして。獣人の国が通り道にあるなら、やっぱり海峡を越える新ルートでトレンタ大陸に行きたいところだな」


「どうしてですか?」


「立ち寄ったついでに、獣王をぶっ殺せるじゃん」


「ええ……?」


 山田は表情を一変させて「マジかこいつ」とでも言いたげに俺を見た。


「獣王のことは、もう放っておいていいんじゃないですか? 覇王丸さんに負けたショックで塞ぎ込んでいるみたいですし。竜の巣の周辺でも、散々悪評をバラまきましたよ?」


「まあ、正直、殺すのはどうでもいいんだけどさ。情報収集できるかなーと思って」


「情報収集?」


「そう。敵地で直接の情報収集」


 しかも、魔王軍に支配された地域ではなく、魔王軍に与している地域での情報収集なので、そこで得られる情報は、たとえ噂レベルのものであっても値千金のはずだ。


 別に聞き込みのような真似をしなくても、街の活気や、治安の良し悪し、厭戦的な雰囲気の有無など、街を歩くだけで感じ取れることもあるだろう。


「たしかに、そういった情報の価値は分かりますけど。でも、危険ですよ? どうやって潜入するつもりですか?」


「獣人の国なんだろ? それなら、変装しないで潜り込める奴がいるじゃん」


 俺が薄笑いを浮かべながら言うと、山田は(さすがに)すぐに気が付いたらしい。


「……それって、もしかしなくても、ハウンドさんですよね?」


「うん」


「やっぱり」


 かわいそうに、と。


 山田はまるで俺を非難するような視線を向けてくるが、そもそも、お前が有益な情報を全然仕入れてこないから、俺たちが動く羽目になっているのだということを理解してほしい。


「ハウンドの代わりに、お前が徹夜で情報収集をしてくれてもいいんだぞ?」


「ここはハウンドさんに頑張ってもらいましょう」


 山田は、風見鶏よりも早く風向きの変化を感知して、瞬く間に掌を返した。


 守護天使になりたての頃の、情熱に燃えていた山田は死んでしまったようだ。


(今のこいつは、さしずめ燃えカスか……。悲しいなあ)


 俺は心の中で嘆きながら、オース海峡に展開する魔王軍の警戒網を突破して、どうにかしてトレンタ大陸に上陸する方法はないものかと、山田と真剣に話し合った。


 途中、何度か「燃えカス」と呼んでしまい、ちょっとした口論になった。

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