諦めるには勿体ない
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国王の説明は更に続いた。
「もう一つの問題は、各国の魔王軍に対する姿勢――――その温度差の違いだ。これは簡単に言ってしまえば、積極的に魔王を討伐しようとするのか、専守防衛に専念するのかの違いでもある。当然、後者を選択する国は、竜の口の攻略には消極的な立場を取るだろう」
「そのへん、人類側も一枚岩じゃないんだな」
ただ、これは専守防衛を選択する国が、臆病風に吹かれているという話ではないだろう。
失敗した時のリスクを考えれば、むしろ当然の選択だと言うこともできる。
なにしろ、現状の戦力で魔王軍の侵攻を食い止められているのだ。色気づいて攻勢に転じた結果、防衛もままならないほどの損害を被ってしまっては、元も子もない。
「こればかりは、仕方がありませんな」
ゲンジロウ爺さんが国王の言葉に同調するように、諦め口調で呟いた。
「竜の口の攻略は無理ってことか?」
「正攻法では難しい……と言わざるを得まい。失敗が許されぬ以上、取り除ける不安要素は、すべて取り除いてから臨むべきだ」
取り除ける不安要素とは、スエービルランス王国との停戦や、反転攻勢に消極的な友好国の説得のことだろう。
(ヨキに手伝ってもらえば勝てると思うんだけど……。これは言わない方がいいか?)
『手伝ってくれますかね?』
(頼めば、まあ、手伝ってくれると思う)
なんだかんだ、竜は付き合いの良い生き物なので、こちらから頭を下げてお願いすれば、余程のことがない限り、力を貸してくれるはずだ。
そして、ヨキが力を貸してくれるのであれば、オース海峡を攻略することは可能だろう。
なにしろ、大型船を一瞬で転覆させてしまうほどの水の魔法の使い手なのだ。海戦においては、ヨキが味方にいるだけで勝利が確定していると言っても過言ではない。
(ただ、おんぶに抱っこで勝っても意味が無いんだよな……)
本来、ヨキは竜王の側近であり、俺が手駒のように扱える存在ではない。
今は行きがかりの都合でピスキスの防衛を引き受けてくれているが、本心では一日も早く竜王のもとに帰りたいと考えているはずだ。
つまり、たとえヨキの力を借りて海戦に勝利し、トレンタ大陸に橋頭保を築いたとしても、そこを魔王軍から防衛する役割まで、ヨキに押し付けることはできないのだ。
自分たちの手で護ることすらできないものを、犠牲を払ってまで奪い取る必要は無い。
いろいろな意味で準備不足だと言うのなら、まだ、焦って行動すべきではないのだろう。
(とはいえ、海峡を渡るルートなら二日でトレンタ大陸だからな……)
それは、非常に魅力的で、諦めるには勿体ない話だ。
ピスキスと竜の巣を結ぶ海上輸送ルートは、食糧支援を続ける関係で今後も維持しなければならないが、それとは別にもっと短時間――――例えば海上輸送ルートの半分の五日間で竜の巣に辿り着く新規ルートを開拓できれば、もっと気軽に、頻繁に、二つの大陸を行き来できるようになるはずだ。
更に言えば、食糧支援について国の全面的な支援を取り付けて、定期便のように発着の本数を増やすことができれば、帰りの船が来るタイミングも逆算できるようになるし、将来的には兵士の輸送にも使えるかもしれない。
「覇王丸? 先程から黙っているようだが」
「……」
「海峡の攻略については、保留ということでよいのか?」
「……」
「聞いておるのか?」
「あ、ごめん」
聞いていなかった、と。
怪訝な顔するゲンジロウ爺さんに、俺は素直に謝罪した。
「それよりも、地図ってあるかな?」
「地図?」
「そう。世界地図がいい。あるなら、見せてほしいんだけど」
「……ふむ」
ゲンジロウ爺さんは何かを察したように頷くと、国王に向き直った。
「陛下。覇王丸がまた、いつものように突拍子も無いことを思い付いたようです」
「……なるほど。そういうことか」
国王も、ゲンジロウ爺さんの一言ですべてを察したように頷いた。
「しばし待て。すぐに用意させよう」
「待つけどさ」
反応がいちいち失礼すぎるだろ、と。
俺は隣に座るロザリアに同意を求めたが、俺の嫁は曖昧な愛想笑いを浮かべるだけだった。
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