ライカの手がかり
毎日投稿できるように頑張ります。
話しかけてきたのは、現在、この地下牢の唯一の囚人である小汚い風体のおっさんだった。
独房の小窓から顔を覗かせて、驚愕の表情を浮かべている。
「魔王軍の兵士を倒したのか? そこの獣人の彼は魔王軍ではないのか?」
「お構いなく」
俺が話しかけるなと言わんばかりに、動物を追い払うジェスチャーで拒絶の意思表示をすると、おっさんはムキになって話しかけてきた。
「私を助けに来てくれたのではないのかっ?」
「そんなわけないだろ。あんた、誰だよ?」
「わ、私はフランツだ。国王陛下の勅許に基づき、この都市で長らく執政官を務めていた。私自身も伯爵の爵位を拝命している。れっきとした貴族だぞ」
「要するに、この町の市長か?」
「そう! それだ!」
ようやく伝わったとばかりに、満面の笑みで頷く元市長。
「ふーん。……縛り終わったか?」
「無視!? 理解した上で無視!?」
今度は「正気か?」と言わんばかりに、小窓から物凄い形相で俺を凝視してくる。
「そうか! 私が偽者だと疑っているのだな?」
「いや。別にそういうわけじゃ……」
「いいだろう! 証明してみせよう!」
「……うるさいな」
――――なんだろう。この、諦めずに食らいついてくる感じが、とても鬱陶しい。
「私はオターネストに関することなら何でも知っている。すべての質問に答えることで、私が本物だということを証明してみせよう」
「お。それじゃあ、回復薬がある場所を教えてくれよ」
昏倒した牢番を縛り終えたハウンドが、渡りに船とばかりに質問をした。
その手には牢番が持っていたと思われる鍵が握られている。
「そ、その鍵を渡してくれ!」
「回復薬の在り処は?」
「この建物の中に備蓄倉庫がある。魔王軍が持ち出していなければ、そこに回復薬もあるはずだ」
「案内できるか?」
「勿論だ」
元市長の返答にハウンドは満足そうに頷き、俺に鍵束を放り投げた。
助けるか助けないか、判断は任せるということだろう。
「もう一つ、質問していいか?」
「何でも聞いてくれ」
「俺たち、ライカって名前の獣人の女の子を探しているんだけど、何か心当たりは無いか?」
「ライカ?」
俺の質問に、元市長はきょとんとした表情を浮かべた。
まあ、当然だろう。オターネストに関する質問ではないし、そもそも情報源が無いに等しい独房の住人に尋ねたところで、望みの回答を得られるはずがない。
駄目でもともと――――くらいに考えていたのだが。
「名前は分からないが、女の子なら、昨日、この地下牢に連れてこられたぞ」
「何だと?」
瓢箪から駒が出た。
「たしか、私の左側の部屋だったはずだ」
「――――誰もいないぞ」
ハウンドがすぐさま小窓を覗き込んで、首を左右に振る。
念のために牢番が持っていた鍵を使って室内を確認したが、間違いなく無人だった。
「おっさん、助かりたいからって嘘をつくなよ」
「嘘じゃない! 君たちが現れる少し前に、サルーキのところに連れて行かれたんだ」
「本当かぁ?」
「その時のやり取りも覚えている。たしか、昨日の夜から、出された食事はおろか一滴の水も口にしなかったらしく、それで反抗しているつもりなのか生意気だと……」
「……」
俺は顔をしかめた。横を見ると、ハウンドも同じような顔をしていた。
(ライカで間違いない)
「ライカで間違いない」
『ライカちゃんで間違いない』
この時、全員の心が一つになった。
評価、ブックマーク、感想などをいただけると嬉しいです。




