城門突破 → 地下牢へ
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程なくして、門番は獣人の兵士を連れて戻ってきた。
(結構、時間がかかったな)
『たまたま手の空いている者がいなかったか、あるいは純粋に人手が足りていないのかもしれませんね』
(都市から住人を追い出したんだっけ?)
『そうですね。農奴として働かせるため、という建前ですが』
もしかしたら、市民に暴動でも起こされたら現存戦力では抑えきれないため、都市の人口を減らす目的もあったのかもしれない。
俺と山田がそんな話をしている間に、ハウンドはこの後の段取りについて、門番から詳細な説明を受けていた。
それによると、まず、兵士が俺とハウンドを牢屋まで連れて行き、牢番に身柄を引き渡した後、俺(配下に加わるかもしれない鬼人)のことをサルーキに報告に行くらしい。
サルーキの反応次第では、すぐに連れて来いという話になるかもしれないし、投獄されたままになるかもしれないし、最悪の場合、不穏分子として処刑されるかもしれないとのことだ。
勿論、おとなしく待っているつもりはないが。
「分かったら、俺についてこい」
事前に門番から言い含められていたらしい兵士は、あからさまに俺と目を合わせないようにしながら、ハウンドに声を掛けた。
城門を通り抜けると、そこには都市の大動脈とでもいうべき大通りが一直線に伸びていた。
ただ、かなり閑散としている。
(ぽつぽつと巡回中の衛兵がいるくらいか)
『人間の姿は本当に見かけませんね』
(そうだな)
都市から住民を追い出したとは言っても、最低限の労働力は残しているはずだ。
町の清掃や炊事、洗濯などを、魔王軍が手ずからこなしているとは思えない。
多分、暇な時は屋内に引き籠っているのだろう。
「ところで、牢屋はどこにあるんだ?」
「中心にある塔だ」
兵士が指し示す方向には、誰が見ても一目瞭然で分かる高い建造物がある。
「あれは、この町の庁舎だった建物だ。地下牢も、サルーキ様の執務室も、全部、あの建物の中にある」
「塔の部分は灯台か?」
「監視塔だな。海から攻めてくる人類軍の船を見つけて、迎撃するんだ」
日中は風向きが、夜間は周囲の浅瀬が、それぞれ防衛側にとって有利に働くため、非常に守りやすいらしい。
「俺たちの方が、人間より遠目も夜目も利くからな。有利な位置で待ち伏せて、先に攻撃を仕掛けるんだ。そうすると、だいたいすぐに引き上げていく。二、三度、同じことを繰り返したら、もう、海からは来なくなったな」
「そんな守りやすい港を、どうやって落としたんだ?」
「夜目が利くって言っただろ? 夜襲を仕掛けたんだよ」
深夜に明りを消した状態でぎりぎりまで接近すると、泳いで港に上陸していきなり地上戦を仕掛けたらしい。
オターネストの住民にとっては、朝起きたら都市が魔王軍に占領されていたのだから、正に悪夢だろう。
途中、他の兵士とすれ違う度に、その全員が「何事?」とばかりに俺を見上げてくるので、俺たちは何度も足を止めて事情を説明する羽目になったが、それ以外は大したトラブルもなく庁舎に到着した。
守衛に許可を貰って中に入り、地下牢に続く階段を下りる。
(見張りの兵士は庁舎の入口に一人、上り階段の前に一人だったな。牢番も一人じゃねーか、これ)
『手薄ですね』
階段を下り切ると、閂の外された頑丈そうな木製の扉の前に、牢番と思われる獣人の兵士が一人、退屈そうに椅子に腰かけていた。
何度目か分からなくなるほど話した俺の説明を繰り返した後、牢番が扉を開ける。
扉の向こう側は、地下通路になっていた。
通路の側面には等間隔で独房が並び、奥に行けば行くほど、狭く、薄暗くなっている。
「随分とカビ臭い場所だな。此処には何人くらい捕まっているんだ?」
すべての独房を見て回る時間は無いと判断したのか、ハウンドが咳き込みながら尋ねると、案内役の兵士は首を傾げ、代わりに牢番が口を開いた。
「都市を占領した際、此処に捕らえられていた者には農奴になるか処刑されるかを選ばせた。人間の法律で捕らえられた者の世話など、俺たちがする義理は無いからな。だから、此処には殆ど誰もいない」
「へぇ……。あんたも大変だな。こんな辛気臭い場所に一人きりで」
ハウンドが労いの言葉をかけると、牢番は「まあな」と苦笑を浮かべた。
(こいつら……。結構、何でもペラペラと喋っちゃうんだな)
『話の振り方も巧いですけどね。まあ、同じ獣人同士なので、警戒心のハードルが下がっているんでしょう。守秘義務や法令順守の意識も、末端の兵士には浸透していないでしょうし』
とにかく、これで牢番が一人しかいないことと、地下牢に捕らえられている者が殆どいないことが確定した。
(殆どいないのに牢番がいるということは……)
『ゼロではなく、若干名は捕らえられているということですよね』
そして、それはオターネストが魔王軍に占領された後、新たに投獄された者である可能性が高い。
要するに――――ライカがこの地下牢に捕らえられている可能性は、かなり高い。
行き当たりばったりの作戦だったが、いきなり当たりクジを引き当てたようだ。
「それじゃあ、俺はサルーキ様に報告に行ってくる。おとなしくしていろよ」
(さっさと行け)
『消え失せろ』
(くたばれ)
『二度と戻って来るな』
俺と山田は逸る気持ちを抑えつつ、地下牢を出ていく兵士を見送った。
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