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ボルゾイ VS サルーキ

毎日投稿できるように頑張ります。

 それが、圧倒的な加速による不意打ちだと気が付いたのは、一秒後のこと。


 直後――――ギンッ、と。激しい剣戟の音が鳴り響いた。


 想定を遙かに上回るボルゾイの瞬発力に、目を見張ったのは俺だけではなかったはずだ。


 胸を一文字に切り裂こうとする斬撃に、両腕を広げていた分だけ反応が遅れたサルーキは、不利な体勢で攻撃を受け止めることになった。


 二人が使っている剣は、狭い場所で振り回すことを想定して作られた短めのものだ。


 ナイフよりは長いが、剣道の竹刀よりは短い。ちょうど新聞紙を丸めて棒状にしたくらいの長さだ。


 短くて軽い分、斬撃にはスピードが乗るが、威力は使用者の腕力に左右される。


「くっ!」


 ボルゾイの斬撃は、大柄なサルーキでも体勢を崩すほどの重さだった。


 それはつまり、殺すつもりの一撃だったということだ。


 攻撃と同時に間合いを詰めたボルゾイは、すかさずサルーキの腕を掴み、捻り上げようとする。


 サルーキがそれを振り払って飛び退くと、着地と同時にボルゾイの追撃が、回避しにくい角度から撃ち込まれた。


 再び、剣と剣がぶつかり合い、悲鳴のような金属音が鳴り響く。


 その後も、ボルゾイは矢継ぎ早に攻撃を仕掛け、サルーキを防戦一方に追い込んだ。


 予想外の展開に、魔王軍からは動揺するようなざわめきが上がる。


 一方、集落の住人たちは固唾を飲んで戦況を見守っていた。


 全員、勝ち負けよりもボルゾイの無事を願っているように見える。


 歓声を上げる者は一人もいなかった。


「ハハハッ! いいぞ! 素晴らしい!」


 そんな中、サルーキだけが、場違いな哄笑を撒き散らしていた。


 劣勢を楽しむくらいには、まだ余裕があるということなのだろうか。


「期待通り、いや、期待以上だ! 貴様は強い!」


 煽るような口調で話しかけながら、細かいステップと剣捌きで、次々とボルゾイの攻撃をかわし、受け止め、弾き返していく。


 だが、それでも攻撃の手を緩めなかったボルゾイの集中力が、とうとう、鉄壁の守りをこじ開けた。


(当たった!)


『よっし!』


 完全に格闘技の試合を観戦するファンのようになっているが、攻撃を捌き損ねたサルーキの腕から鮮血が飛び散るのを見て、俺と山田は歓声を上げた。


 だが、それでも――――サルーキの口からは、笑みが消えなかった。


「それだけに残念だ! 貴様のような強者が、腑抜けていることがなぁ!」


 目まぐるしく両者の位置が入れ替わる激しい攻防の最中、突然、サルーキは強引すぎるほど強引に、ボルゾイを押し返した。


「さあ! これを避けられるか!」


 そして、サルーキが繰り出した技は、何のことはない、ただの刺突だった。


 中距離からの助走をつけた渾身の――――だが、直線的な攻撃。


 ボルゾイであれば、簡単に回避できたはずだ。


 そうすれば、勢い余ったサルーキの無防備な背中に刃を突き立てて、戦闘不能に追い込むことができる。


 ――――そうなるはずだった。


(は!?)


 右手に剣を構え、サルーキの刺突を真っ向から受け止める体勢を取ったボルゾイを、最初、俺は信じられない思いで見ていた。


 だが、すぐにその理由が分かった。


 サルーキの前に立ちはだかったボルゾイの背後に――――ライカがいたからだ。


 ボルゾイが攻撃をかわしてしまえば、勢い余ったサルーキの刺突が、ライカを傷つけるかもしれない。


 だから、ボルゾイは絶対に回避しない。――――回避できない。


 そこまで計算した上での攻撃だったに違いない。


 線の軌道の斬撃を受けるのと、点の軌道の刺突を止めるのでは、難易度が大きく異なる。


 まして、両者の実力が拮抗している状況で、助走を付けて押し込んでくる渾身の一撃を、剣のみで完璧に受け止めるのは、殆ど不可能と言ってもいいだろう。


「ぐあっ!」


 剣の軌道がずれて、脇腹を深く抉られた激痛に、ボルゾイの表情が歪む。


 その隙を、サルーキが見逃すはずもなかった。


 一撃目、横薙ぎの斬撃を受け止めようとするも、力が入らず、剣を弾き飛ばされた。


 二撃目、振り下ろしの一撃が、無防備なボルゾイの肩にめり込んだ。


 ボルゾイが肩を抑えて、膝から崩れ落ちる。


 こうして、勝敗は決した。

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