ライカは母親に似たんだろう
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俺が寝室に戻ると、ライカは頭まで布団を被って、体を丸めていた。
だが、俺が扉を開けた瞬間、布団がぴくりと動いたので、まだ起きてはいるのだろう。
(親子そろって面倒くさいな……)
『一言、二言、声をかけるだけですから』
(それが面倒くさいんだよ)
いっそのこと、布団の上から尻でも触ってやろうかと思ったが、それをやると、また山田がうるさそうだ。
「ライカ、起きてるよな?」
「……」
「ボルゾイから、お前の母親の話を聞いてきたぞ」
「…………っ」
布団がまた、ぴくりと動いた。
反応がいちいち素直すぎる。
「ライカの母親は人間だったって聞いたぞ」
「……だから、何ですか」
反抗的な口調。
顔を隠していても、今、ライカがどんな表情をしているのか、手に取るように分かる。
「ライカって、獣の血が薄いことを、恥ずかしいと思ってるだろ?」
「……っ!」
たしか、初めて会った日の夜。
髪の毛で人間の耳を隠している理由を、ライカはそのように答えていたはずだ。
山田の話では、一般的に獣人は、体に流れる獣の血が濃ければ濃いほど先天的な身体能力が高くなるらしい。
だから、ライカは半端者の証である人間の耳を隠していたのだろう。
自分がもっと獣の血が濃い獣人であったならば、今以上にボルゾイの役に立つことができたはずだと――――そんなことを思いながら。
「でも、それは自分の母親を否定するのと同じことだよな?」
「っ! ちが――――
反射的に起き上がろうとしたライカの頭を、俺は被っている布団ごと掴んで、ベッドに抑えつけた。
少し乱暴だが、今はお互いの顔を見て話さない方がいい。
「ライカって、すぐに怒るよな? 短気というか、頭に血が上りやすいんだよ」
「…………悪いんですか」
最初は、なんとか起き上がろうとしていたライカだが、すぐに抵抗を止めた。
腕力では俺に勝つことはできないと、諦めたのだろう。
「ボルゾイはあんなに落ち着いているのに」
「……」
「きっと、ライカは母親に似たんだろうな」
「…………ぅ……うぅ……」
微かに嗚咽が聞こえる。泣かせてしまったようだ。
『この会話の流れで「母親に似ている」なんて言われたら、泣くに決まってますよ』
(絶対、こうなると思ったんだ。だから、嫌だったんだよ)
俺はため息をついて、抑えつけていたライカの頭を軽く撫でた。
今度は優しく、子供をあやすように。
「母親のこと、嫌いじゃないんだろ? だから、あんなに怒ったんだよな?」
尊敬する父親の目の前で、母親が侮辱された。
それを目の当たりにしながら、何もすることができない。
里長の娘という肩書きがあっても、大事な会議に出席することすら許されない。
そんな自分がもどかしくて――――悔しかったに違いない。
「でも、今の自分を否定するようなことはするな。何でもできる奴なんていないし、逆に何もできない奴だっていないんだから。ライカは今のままでも、集落の皆に必要とされているだろ。それくらい自覚しろよ。このアホが」
『最後の一言、要らないだろ!』
山田が頭の中で騒いでいるが、そんなの知ったことではない。
最後に「分かったな?」と念を押すと、ライカは鼻をすすりながら頷いた。
「……ぅ……覇王丸さん」
「何だ?」
「ご迷惑……おかけしました」
「真面目すぎる」
ライカも。ボルゾイも。
俺は御役御免とばかりに、隣のベッドに横になった。
「まあ、何とかなるだろ」
「はい……ありがと……ございます……」
それは別にライカを励ますための言葉ではなく、ただの独り言だったのだが……。
あえて訂正する必要もないので、俺は何も言わなかった。
世の中、生きてさえいれば、何とかなるものだ。
本当に大事なことは、集落が無くなることではなく、集落の皆が生き残ること。
ボルゾイは、それを理解しているはずだ。
だから、大丈夫。
俺は無理やりそう思い込んで、眠りについた。
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