暗雲
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夕刻、突如もたらされた凶報に、集落は騒然となった。
ライカは薬品の入った箱を抱えて治療に駆け付けると、負傷者の容態を見るなり、躊躇なく回復薬を使用した。
そうしなければ命に関わる――――それほどの重傷だったらしい。
貴重な回復薬を消費してしまったが、負傷者は一命を取り留めた。
その知らせに、集落の空気は弛緩したが、それは一度も戦線に身を置いたことの無い、常に平和の中で暮らしてきた住人だけだった。
ボルゾイはすぐに集落の要人を招集し、集会所に籠もりきりになる。
議題が、軍事・防衛に関することなので、ライカは出席を許可されなかった。
会合は夜になっても終わらず、俺とライカは、隣の集会所から微かに漏れ聞こえてくる声を聞きながら、言葉少なに晩飯を食べ、早めに就寝することになった。
*
俺はベッドで横になり、ぼんやりと考え事をしていた。
これからどうなるのか、まったく想像がつかない。
突然、降って湧いた不幸など、世界にはありふれているはずなのに。
そういうものは、自分から首を突っ込まない限りは無縁なのだと、心のどこかで思い込んでいたのかもしれない。
平和だったこの集落の空気が、不安の色に染まっていく様子を目の当たりにして、胸の奥がざわざわと落ち着かなかった。
(そういえば、ライカは……?)
『パジャマに着替えると言って、出て行ったきりですね』
(遅いな)
俺は起き上がり、様子を見に行くために寝室を出た。
すると、今、正に着替え中のライカと鉢合わせ――――というラブコメならお約束の展開は起こらず、ライカは集会所の扉にぴたりと張りついて、聞こえてくる話し声に聞き耳を立てていた。
「あ……」
俺に気がついたライカは、一瞬、動揺したような表情を浮かべたが、怒られることは覚悟の上なのか、扉から耳を離そうとはしない。
俺も見咎めるような真似はせず、足音を立てないようにライカに歩み寄ると、同じように聞き耳を立てた。
『あんたも盗み聞きするんかい』
(当然だろ)
道連れにするまでもなく、最初から共犯者がいるというのは、この上なく気楽だ。
(責任も、罪悪感も、半分で済むからな)
『罪悪感ゼロのくせに』
山田の指摘は正鵠を射ていたが、俺は当然のように無視をした。
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