水浴びと洗濯と風呂と覗き
毎日投稿できるように頑張ります。
六日目。
獣人の子供たちを引き連れて、川に水浴びに行った。
集落には、大量に水を使用する風呂は存在しない。
皆、井戸から汲み上げた水(もしくは、それを温めたお湯)で体を拭き、日々の生活の汚れを落としている。
一方、川辺にある農地には風呂が存在するため、集落の住人の中には、わざわざ早起きをして風呂に入りに行く者もいるらしい。
「でも、それは大人の話です。寒い季節を除けば、子供は水浴びで済ませてしまうことが多いですね」
洗濯籠を抱えたライカが説明する。
「ライカも?」
「……私は子供ではありません。大人なので引率役です」
水浴びに行く子供は、洗濯当番の大人が引率することが慣例になっているらしい。
この日はライカの他にも、洗濯籠を抱えた大人が何人か同行していた。
「家で洗濯したら駄目なのか?」
「集落には、洗濯物を干す場所が無いんです。自分で洗濯できない人もいますし、川ならば、水を節約する必要がありませんから。当番を決めて、皆の分をまとめて洗ってしまった方が、効率が良いんです」
「自分の服が、分からなくならないのか?」
「皆、目印を付けたり、名前を刺繍したりして、いろいろ工夫していますよ」
ちなみに、里長であるボルゾイの服は、少しだけ豪華なデザインになっているため、それが目印になっているらしい。
洗濯場になっている河原は、ぽつんと一つだけ大きな岩があり、そのせいで川が大きく湾曲している場所だった。
岩が衝立の役目をはたすため、さながら温泉のように男女別に分かれて水浴びをするようだ。
「覇王丸さんの仕事は、洗濯物を干すための紐を木の枝に結び付けることと、子供が溺れないように監視することです。川の対岸は底が深くて、水の流れも速くなっているから気を付けてください。たまに男の子が覗こうとして、向こう岸に渡ろうとするので」
「アホだな」
『いえ。気持ちは理解できます』
まさかの覗き容認派が、俺の頭の中にいた。
「素っ裸じゃないんだろ? そんなに気にすることはないんじゃないか?」
俺の後方では、既に上半身だけ裸になった獣人の男子が、ばしゃばしゃと水を掛け合って、遊び始めている。
「それでも恥ずかしがる子はいますから。一応、私や他の大人も注意しますけど、洗濯があるから、ずっと見ていることはできないんです。だから、ちゃんと見張ってくださいよ」
「分かった。とりあえず、先に紐を結んでくる」
俺はライカから洗濯紐を受け取り、適当な高さの木を探して、枝にしっかりと括りつけた。
紐が低すぎると洗濯物が地面に接してしまうし、逆に高すぎると干す作業まで俺がやることになってしまう。
(というか、まる見えだな……)
当然ではあるが、岩が目隠しになるのは岩の付近だけだ。
河原から少し離れると、男湯側も女湯側もまる見えになる。
(ん?)
俺は女湯側の岩陰にライカの姿を見つけた。
洗濯物を足で踏みつけて洗っているようだが、何やらモゾモゾと動いている――――と思ったら、おもむろに服を脱ぎ始めた。
どうやら、距離が離れているため、俺が後ろから見ていることに気づいていないらしい。
エプロンスカート、ベスト、ワンピースの順に脱いで、ライカは下着姿になった。
とはいえ、エロさは無い。
上は肌着で、下はドロワーズ――――俗に言う、かぼちゃパンツだからだ。
(興奮しないなぁ)
『何を言ってるんですか! しますよ!』
(お前は黙ってろ)
俺は興奮する性犯罪者を無視して、ライカに歩み寄った。
こうして見ると、ライカは腕も脚も細く、全体的にすらっとしている。
日本人なら中学生くらいの年齢だと思うのだが、胸は僅かに膨らんでいるのが見て取れる程度だ。
だから、幼さが先行してしまい、色気はあまり感じない。
ただ、髪の毛は、とても綺麗だと思う。
今、ライカは髪を後ろでまとめたポニーテールにしているのだが、太陽の下で見ると、キラキラと光を反射して、白髪ではなく銀髪だということがよく分かった。
頭の尻尾と、尻の尻尾。
頼み込めば、どちらかを触らせてもらえないだろうか。
「何で服を脱いだんだ?」
「ひゃあっ!」
ある程度の距離まで近づいてから声をかけると、ライカは目で見て分かるくらい大げさに、ビクッと肩をすくめた。
「なな、何、何を、何をしているんですかっ!?」
反射的に右腕で胸元を隠し、更に左手を伸ばしてドロワーズも隠そうとする。
頬は紅潮し、表情は怒っているのか、笑っているのか、よく分からない。
大混乱に陥っているようだ。
「洗濯紐を結んだから報告に来た。それで、何で裸になっているんだ?」
「裸じゃありません! 服が濡れてしまうから、脱いだだけです。というか、なんで堂々と見ているんですか! もう、見ないでください! エッチ!」
「分かった。でも、その前に頼みたいことがある」
「……何ですか?」
「尻尾を――――
「絶対に駄目です!」
感情が羞恥と混乱から、一気に怒りに傾いたらしく、ライカは手で川の水をすくって、俺に浴びせてきた。
これは後から聞いた話だが、獣人にとって他人に尻尾を触らせる行為は、相手に服従の意を示すものであり、特に異性間では性的な意味合いを含む行為になるらしい。
道理で触らせてくれないはずだ。
「早く向こうに行ってください!」
「分かったよ。悪かったよ。あー、怖いなー。怖い怖い」
「何ですか、その謝り方は!」
最後は、ライカが足を使って川の水を浴びせてきたので、俺は逃げるように反対側の岩陰に避難した。
その後、ライカは完全に怒ってしまい、晩飯の時まで口をきいてくれなかった。
仲裁役を申し出たボルゾイが「こんなことは珍しい」と面白がっていたほどだ。
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