集落の住人と仲良くなる
毎日投稿できるように頑張ります。
熊退治の後も、俺は集落のあちこちに顔を出して、いろいろな仕事を手伝った。
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三日目。
俺の靴が完成した。
獣の皮をなめして作ったという革靴は、事前に足のサイズを測っただけあって、俺にぴったりだった。
デザインも、ひと目で靴と分かるちゃんとしたものだ。
昨日、俺と山賊のおっさんたちで倒した巨大熊の毛皮が水に浸けてあったので、その日は、皮の裏側に付いた肉や脂肪を取り除く作業を手伝うことにした。
裏すきという作業らしい。
「鉈を使って、磨るように削り取るの。ぎりぎりまで薄く削った方が良いけど、削りすぎると毛が抜け落ちちゃうからね。力任せは駄目だよ」
「細かい作業は苦手なんだ。失敗するかもしれない」
「慎重にやれば大丈夫だよ」
革靴を作ってくれた職人のおばちゃんは、丁寧に指導してくれた。
「それにしても、これだけ大きな熊の毛皮となると、敷物にして人間の町で売った方が良いかもしれないねぇ。貴族が高いお金を出すかもしれない。でも、冬用の防寒着も作っておきたいところなのよねぇ」
「そんなの、俺がまた捕まえてきてやるよ」
「あら、頼もしいねぇ。でも、あまり無茶をしたらいけないよ?」
「ボルゾイに剣を教えてもらうことになったから、大丈夫だ」
「それなら安心だねぇ」
一生懸命に習うんだよ? と。
職人のおばちゃんはその後も親切に、集落のことをいろいろと教えてくれた。
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四日目。
ライカと一緒に、午前中から荷車を引っ張って農地に足を運んだ。
早めに出発したのは、一日がかりで収穫と休耕地の再生を手伝うためだ。
ライカは女たちに混ざって野菜の収穫を手伝い、俺は獣人の男たちに混ざって休耕地を畑に戻す作業に取り組んだ。
「雑草は生えてないんだな」
「定期的に草刈りはしていたからね」
「じゃあ、後は掘り起こすだけか」
「うん、そうそう。根気と体力のいる作業だけど」
集落の中では比較的若い獣人の男から平鍬を受け取って、よいしょと、固くなってしまった地面に突き刺す。
「あれ? 結構、さまになっているじゃないか」
「俺、農家の息子だから」
休耕地を畑に戻すには、時間をかけてゆっくりと再生する方法もあるが、深い所と浅い所の土地を入れ替えてしまう方法が、わりと手っ取り早い。
とはいえ、ショベルカーなどの重機は勿論、掘り起こし機などの便利農具もないため、平鍬を何度も振り下ろす地道な反復作業になる。
(土が固いな、これ)
恐らく、草刈りをする時に、丁寧に根っこも取ってしまったのだろう。
草の根には土を柔らかくする働きがあるため、あまり頻繁には草を刈り取らない方が良い場合もあるのだ。
周囲を見回すと、他の獣人も固い地盤の掘り起こしに苦戦している様子だった。
(まあ、全員でやれば夕方までには終わるだろう)
俺は太陽が西に傾くまで黙々と作業をこなし、野菜を大量に積み込んだ荷車を引っ張って、暗くなる前に集落に戻った。
余談ではあるが、帰る途中、俺はまた毒キノコを発見した。
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五日目。
集落の女たちが集まって、保存食やパンを作るというので、ちょっと見学するつもりで顔を出したら、適任者が来たとばかりに捕まって、石臼を回す係に抜擢された。
すり潰したものは、小麦ではなく、木の実と豆だ。
「小麦以外でもパンって作れるのか?」
「あれ? 覇王丸って、もしかして、良いとこのお坊ちゃんなのかい?」
「いや、農家の息子だけど」
「ははーん。それなら、実家で小麦を作っていたんだろうねぇ」
(作っていなかったなぁ)
訂正しようかとも思ったが、日本とこちらの世界では食糧事情も異なるだろうから、黙っていることにした。
なんでも、小麦だけで作る白いパンは贅沢品なので、木の実や豆をすり潰したものを混ぜてパンにするらしい。
「そうすると、ちょっとごわごわした食感の茶色っぽいパンができるんだよ」
「へー」
「お年寄りが食べるには少し硬いけれど、栄養価は高いんだよ」
そんな調子で、雑談をしながら、ほぼ一日中、石臼をゴリゴリと回し続けた俺は、その日、一番上手に焼けたパンと、干し肉の燻製を報酬として受け取った。
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