巡回の仕事を手伝う
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二日目の朝。
俺は山賊のおっさんに連れられて、巡回の仕事を手伝うことになった。
巡回には、集落や農地の周辺を見回って、害獣などの脅威を取り除くグループと、森の外周付近を哨戒して、侵入者(魔王軍)を撃退するグループの二つがあるらしい。
危険度が高いのは、当然、後者の方だ。
「俺たちの班は、集落の周辺を巡回するグループだ」
「だろうな」
そうでなければ、一昨日の夜、集落の近くに転移した俺を、おっさんが発見することはできなかったはずだ。
それに、見た目に反して小心者であるおっさんに、魔王軍を撃退する役目など務まるはずがない。
「そういえば、おっさん、山賊じゃなかったんだな」
「何だよ。やぶからぼうに……」
「最初に見た時、山賊だと思ったんだよ」
「ああ……。俺たちはこんな見た目だからなぁ」
どうやら、自分が強面だという自覚はあるらしい。
『見た目が怖いという点では、覇王丸さんも人のことは言えないと思いますけど』
(俺は単純に背が高いだけだ。顔はイケてる)
『あ、意外に自己評価が高い……』
ちなみに、今のおっさんは、鉈と矢筒を腰にぶらさげ、手には弓を持っている。
「どこからどう見ても山賊なんだけどなぁ」
「こいつ……。すっかり、俺たちのことを見くびっていやがるな」
おっさんは忌々しげに顔をしかめながらも、わざわざ予備の胸当てと兜を持ち出して、俺に貸してくれた。
「集落の周辺は比較的安全だけど、用心するに越したことはない。もしもの場合でも、頭と腹さえ守っていれば、滅多なことは起こらないからな」
強面だが、根は善人なのがまるわかりだ。
とはいえ、今更、認識を改めるのは面倒なので、俺は今後も心の中で「山賊のおっさん」と呼び続けることに決めた。
「そもそも、どうして巡回の仕事なんか、やる気になったんだ? お前、何か武器は使えるのか? 弓とか槍とか」
「何も」
強いて言うなら、中学生の時、体育の授業で剣道をやったことがあるくらいだろうか?
「お前、よくそれで巡回の仕事を手伝おうと思ったな……。仕方ない。これを持っていろ。素人でも振り回すくらいできるだろ」
そう言って、おっさんから鉈を手渡されたが――――
「いや、駄目だ。お前見たいな素人に、近くでこんな物を振り回されたら、俺たちが真っ先に死ぬ。やっぱり返せ」
「なんなんだよ」
結局、俺は手ぶらのまま、巡回の仕事に参加することになった。
*
その日の昼。
川辺で昼休憩を取っていた時、農場の近くを巡回していた別のグループから、増援を求める伝令がやってきた。
農場から程近い場所で、大型の獣を発見したらしい。
「どうするんだ?」
「皆で協力して仕留める。そうすれば、今夜は久しぶりに肉が食える」
おっさんの言葉に呼応するように、周囲から「肉だ!」「御馳走だ!」という声が上がる。
集落の全員に行き渡る量の肉を一度に確保できる機会は、滅多に無いのだという。
「小さい集落だが、結構な人数がいるからな。育ち盛りの子供もいるし、たまには腹いっぱい肉を食わせてやらないと」
「獣人が獣の肉を食ったら、共食いになるんじゃないか?」
「お前っ……! そういうこと、皆の前では絶対に言うなよ!?」
なんで学習しないんだこいつ、と。
おっさんが、信じられないものを見るような眼差しを向けてきたが、地球生まれ地球育ちの俺には、獣人にとってのタブーなどさっぱり分からない。
(獣人って、獣であることに誇りみたいなものを持っているよな? でも、人間扱いされないから、反発しているんだろ? 結局、どっちなんだ?)
『きっと、複雑なんですよ。自分は人間だと自覚する一方で、差別されることへの反発から、獣としての自分にも誇りのようなものを見出しているんじゃないですか?』
(つまり、どういうことだ?)
『獣人の気持ちは、獣人にしか分からないということです』
山田は説明を放棄した。
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