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進化の魔王と覚醒の覇王。 ~転生する前から世界最強~  作者: とらじ
アルバレンティア王国と神聖教会編
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もう終わりだぞ

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

隔日で更新できるように頑張ります。

 俺は未だに立ち上がれずにいる法王の側に戻った。


「いつまでショックを受けているんだよ」


「……なぜ、あの魔人は、何年もの間、正体を偽り続けたのでしょうか?」


「さあ? 普通に考えたら、治癒魔法の習得方法を盗むためじゃないか?」


 あわよくば、自分も習得できると思っていたのかもしれない。


「私は……ブレーグ枢機卿のことを尊敬していたのです。理不尽な暴力により、人生の大半を捧げて習得した治癒の奇跡の力を失って、それでも絶望せず、努力を続ける姿勢に、尊敬と、同情と、負い目も感じていました。でも、それはすべて魔人の演技だったのですね」


「そうだな」


「獣人を非難する公式見解を出したことも、すべて魔人の掌の上だったと……」


「公式見解は訂正してくれればいい。報告が遅れたけど、砦の問題は解決したからな」


「……分かりました」


 法王はうな垂れたまま力なく頷いた。介添えの修道女が、心配そうに顔を歪めている。


 俺はその場に座り込み、法王と目線の高さを合わせた。


「あんた、神聖教会で一番の治癒魔法の使い手なんだろ? ウジウジしている暇があるなら、他にやらなくちゃいけないことがあるんじゃないか?」


「覇王丸様、そんな言い方は……」


 ロザリアが慌てて止めに入るが、俺はそれを手で制する。


「あんたの治癒魔法で、たくさんの命を救えるんじゃないのか? 俺は、治癒魔法なんか使えなくても、自分にできる精一杯のことをして、命を救った凄い奴を知っているぞ。それなのに、あんたは何もしないのか?」


「――――そうですね。そのとおりです」


 法王は自分に言い聞かせるように呟くと、修道女の手を借りて立ち上がった。


「間違いを繰り返すところでした。今は私にできることをしなければ」


 その表情は、昨日の会談で見た時のような毅然としたものだった。


「貴方たち。お手伝いをお願いできますか?」


「勿論です!」


 法王の言葉に、それまで不安そうにしていた修道女たちの表情に、希望の色が戻る。


 やはり、法王は精神的支柱なのだ。


「覇王丸さん、ありがとうございます。このような立場になると、なかなか叱ってくれる人がいなくて……。今回は助かりました」


「俺みたいな奴はいないのか」


「少なくとも神聖教会には」


 と法王。


「王国にもいませんね」


 とロザリア。


『当然、世界管理機構にもいません』


 と山田。


「なんだ、お前ら」


 さすがに、三人同時に言われれば、褒められていないことぐらいは理解できる。


「俺がいなかったら、誰も魔人の正体を暴けなかったじゃねーか」


「それはそうなんですけどね」


「やり方が……」


 お互いに顔を見合わせて「あれはないよね」と頷き合う法王とロザリアを見て、俺は思わず舌打ちをした。


「もういい。俺は竜を倒してくる」


「え?」


「あ、そういえば……」


 どうやら、二人とも、俺が口にするまで竜のことはすっかり頭から抜け落ちていたようだ。


 修道女たちも、今頃になって浮足立っている。呑気なことだ。


「覇王丸様、竜はどうしているのですか?」


「今、ゲンジロウ爺さんが一人で足止めをしている」


「え……? だ、大丈夫なのですか?」


「余裕だぞ」


 なにしろ、ゲンジロウ爺さんは風の魔法で竜の攻撃を無力化できるのだから。


「一人でも倒せると思うけど、俺が合流すればもっと早く倒せるはずだ」


 二人で取り囲んで攻撃を繰り返し、竜にこのままでは勝ち目が無いと思わせてから、交渉を持ち掛ければいい。砦の竜と同種だったので、素直に降伏勧告を受け入れるはずだ。


 とはいえ、さすがにのんびりしすぎたかもしれない。


 俺が急いで大聖堂の外に出ようとすると、一人の衛兵が血相を変えて室内に飛び込んできた。


「ゆ、勇者様! 大変です!」


「どうした!?」


 よく見れば、駆け込んできたのは、大部屋で恐怖のあまり座り込んでいた衛兵だ。


「竜がもう一匹! 上空に、二匹目の竜が現れました!」


 衛兵の報告に、室内は水を打ったようにシンと静まり返った。


「は、覇王丸様……?」


 ロザリアが不安を隠せない様子で、恐る恐る俺に声をかけてくる。


 大丈夫だと、俺に言って欲しいのだろう。


 たった一言――――それで、安心したいのだろう。


「ああ」


 それを察した俺は、わざと、ゆっくり、大きく頷いた。


「もう終わりだぞ」


「えぇっ!?」


 砦の竜が加勢に来たのでもう勝ったようなものだという意味で言った俺の言葉は、正反対の意味で受け止められて、現場は一時的なパニックに陥った。

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