内通者の正体
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「俺の勘違いだったら許してほしいんだけど、ちょっとこれを見てくれないか?」
そう言って、ブレーグに軽く握り込んだ右の拳を差し出す。
「――――何でしょうか?」
「これだよ」
俺は掌を見せる――――が、何も握り込んでいないので、当然、何もない。
「小さいから見えないかもしれないけど」
「小さい……?」
ブレーグが俺の言葉を真に受けて、掌に顔を近づける。
俺はブレーグに掌を近づけるふりをして、両手で頭を抱え込んだ。
「すきありぃぃぃいい!」
「くぶっ!」
不意打ちの、しかも渾身の膝蹴りが、ブレーグの鼻っ柱を叩き潰した。
「は、覇王丸様!?」
突然の俺の凶行を目撃したロザリアが、悲鳴のような声を上げた。
法王、修道女、その他の要人たちも、驚愕の表情を浮かべて俺を見ている。
「待て。落ち着け。これにはちゃんとした理由があるんだ」
俺は意識を失ったブレーグを床に横たえながら、暴挙に及んだ事情を説明した。
砦で竜に襲われたこと。
その竜と会話ができたこと。
そして、竜から聞き出した情報により、大聖堂の危機をいち早く察知できたこと。
「今回の襲撃は、仮面の魔人によって計画されたものだ」
「魔人……?」
「まあ、十中八九、魔王軍だろうな」
魔王軍という言葉を聞いて、周囲に動揺が広がった。
「そして、神聖教会の内部に裏切り者――――内通者がいる可能性が高い。どういうわけか、その魔人は大聖堂の警備が手薄だということを知っていたからな。今日、衛兵数十人がヒナの護衛に就くことを知っていたのは、昨日の会談の出席者だけだ」
「そ、その内通者が……ブレーグ枢機卿なのですか?」
ロザリアの問いかけに、神聖教会の関係者は騒然となった。
「まさか……ブレーグ殿が? あり得ない!」
「その魔王軍に、最もむごい目に遭わされたのが枢機卿なのだぞ!?」
「証拠は!? 証拠はあるのか!?」
どうやら、ブレーグは神聖教会内で絶大な信頼を得ていたらしい。
まあ、分からないわけではない。
俺の第一印象も善良な苦労人だったし、ライカも良い人だと判断していた。
唯一、ヒナだけは「嫌いです」と明言していたが……。
「覇王丸さん。どうなのですか? その内通者の正体が、ブレーグ枢機卿だと?」
このままでは収拾がつかなくなると判断したのか、法王がこの場を代表するように前に進み出て、改めて俺に質問をした。
全員の注目が、俺に集まる。
それに対する俺の答えは、
「さあ? どうなんだろうな?」
という、我ながら無責任極まりないものだった。
「あの……えーと……覇王丸様?」
ロザリアが引きつった笑顔で俺に話しかけてくる。
「こいつが内通者かどうかは、すぐに分かる」
俺は鼻血を垂れ流しながら白目を剥いているブレーグの顔を眺めながら、先刻、迎賓館前で起きたことを思い出していた。
*
アルバレンティア王国の兵士と取っ組み合っていた農夫を、不意打ちの飛び蹴りと張り手で失神させた後、俺はさっさと大聖堂に向かうつもりでいた。
「見てのとおり、敵は農夫の格好をして紛れ込んでいる。他の連中にも注意喚起をして回ってくれ」
「はい! 畏まりまし……うわあっ!」
突然、兵士は敬礼しかけた腕をバタバタと動かし、仰天した様子で尻もちをついた。
「どうした?」
「か、顔にヒビが……!」
「え?」
兵士が指さした先、倒れた農夫の顔を見ると――――
(何だ、これ?)
潰れた鼻を中心に、放射状のヒビが入っていた。
見ている間にもピシピシと顔の亀裂は広がり、やがて、欠片が鱗のように剥がれ落ちる。
その下にあったものは――――
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