この中に内通者がいる
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俺が「さあ治せ」と言わんばかりに両腕を広げると、修道女たちは手分けをして傷の治療に取りかかった。
「あっちの広い部屋も、怪我人だらけで酷いことになっているんだ。だから、これが終わったら、そっちにも行ってくれ」
「分かりました」
「酷い火傷……。痛くないのですか?」
左腕に治癒魔法をかけていた修道女が、直視するのも辛そうにしながら、尋ねてくる。
「痛いけど、我慢した。俺は体がデカいから、少しくらいなら無理がきくんだ」
肉を切らせて骨を断つような戦い方ができるのも、ひとえに大きな体のおかげだ。
今はまだ、そうやって技術の未熟さを補いながらやっていくしかない。
だが、俺の発言に、ロザリアは不満そうに眉をつり上げた。
「覇王丸様。どうか、無茶はなさらないでください。覇王丸様の身にもしものことがあっては困るのですから」
「は? ロザリアの無事を確かめるために頑張ったんだぞ?」
「それは、その、ありがたいのですけれど……。でも、だからといって、自分の命を軽んじるようなことはしないでください」
「普段、散々威張っているんだから、こういう時くらいは体を張るし、無茶もするよ。それでも、嫌いな奴のためにここまではしないぞ。ロザリアだから頑張ったんじゃねーか」
「え?」
ロザリアは目を丸くして聞き返した。
「お前のことは、俺の中じゃ優先順位高いからな」
「あう……そ、そう言っていただけるのは、その……光栄なんですけど……」
俺の言葉に、ロザリアは急に顔を真っ赤にして、ごにょごにょと口ごもった。
修道女たちが目を輝かせながら、俺とロザリアの顔を交互に見比べている。
「あの……お二人はもしかして……?」
「違うぞ」
「え? ……あ、すみません。秘密なんですね?」
「違うぞ」
「大丈夫です。私たち、絶対に口外しませんから」
「違うって言ってんだろ」
全然、人の話を聞いてくれない。
(そもそも、何か誤解させたか?)
『誤解というか、これライカちゃんの時とまったく同じパターンですよ。何? もしかして、口説くためにわざと怪我してるんですか?』
(そんなわけあるか)
ただでさえ、王都エードラムでは俺が魔王退治の見返りにロザリアとの結婚を要求しているという噂が広まっているのだ。
事実無根から一転、これが根も葉もある噂になってしまったら、ロザリアをダシに使ってのし上がるつもりなのではないか、政治的野心があるのではないかと、周囲から疑われてしまう。
(面倒くさすぎる……。後でロザリアと話しておこう)
俺は一刻も早くこの状況を脱するため、治療が終わるのを待って、さっさと本題に入ることにした。
「ところで、偉い人たちは全員無事か? 法王様は?」
「ここにいますよ」
俺の呼びかけに、法王が手を上げて答える。
「枢機卿は?」
「私ならば、ここに」
俺の呼びかけに、ブレーグが手を上げて答える。
「その他大勢は?」
「ここにおりますぞ!」
「我々の名前も覚えるべきではないのか!」
俺の呼びかけに、その他大勢がブーブーとクレームで答えた。
どうやら、誰も欠けてはいないようだ。
この中に内通者がいるとしたら――――誰だろうか。
(最初は、やっぱりこいつかな)
俺はブレーグに歩み寄った。
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