一対七の戦闘(後編)
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「うわぁぁぁ!」
味方を傷つけるわけにもいかず、魔法を中断した魔法使いに為す術は無かった。
動揺して回避行動を取らず、その場に立ちすくんだ時点で勝負ありだ。
正面からタックルを受けて仰向けに倒れ込んだ魔法使いの顔面に、俺は体重をかけた渾身の頭突きをお見舞いした。
「あと三人」
淡々と呟いて顔を上げた、ちょうどそのタイミングで――――
「!」
短剣が激しく回転しながら、目の前に飛んできた。
「ぐっ!」
間一髪。とっさに左手を顔の前にかざして、短剣を防ぐ。
運悪く、短剣は、刃の部分が掌に突き刺さった。
それとほぼ同時に、今度は踏み込む足音と風切り音が耳朶を打つ。
俺は、反射的に体を仰け反らせて、振り下ろされる短剣を回避した。
「つっ!」
肩口に痛みが走る。
直撃は免れたが、鎖骨の辺りを斬られたようだ。服の下に鎖帷子を着ていなかったら、もっと深くえぐられていたかもしれない。
――――やはり、今の俺には、まだゲンジロウ爺さんのように戦うことはできそうにない。
だが、それがどうした。
不格好でも、不器用でも、全員を叩きのめせば、俺の勝ちだ。
――――ただの一人であっても、逃がすつもりはない。
「くたばれっ!」
俺は仰け反った無理な体勢から、力任せに、強引に、メイスを水平に振り切った。
「がっ!」
確かな手応えと共に、短剣を振り下ろした侵入者の腹にメイスが命中する。
腹部を襲った凄まじい衝撃に侵入者は意識を保つことができず、白目を剥いて顔面から床に突っ伏した。
「あと二人」
俺はもう攻撃を避けるつもりはなかった。
一対五ならともかく、一対二なら許容範囲内。
もう、俺の土俵だ。
目の前には、短剣を構える男と、両手を俺に掲げている男。
剣士と魔法使いだ。
奥に立っている魔法使いが、俺に炎の塊を飛ばしてくる。
俺は左腕を振り払って、その炎をかき消す。痛みが増したが、今はどうでもいい。
腕を振り払った拍子に、掌に刺さった短剣が抜け落ちて、カランと音を立てた。
視界で動くものをつい目で追ってしまうのは、反射というやつだ。
魔法使いの目線が俺から離れた一瞬の隙をついて、俺はメイスを投擲した。
「ひっ!」
だが、当たらない。メイスは身を屈めた魔法使いの頭をかすめて、後方の床に転がった。
「武器を手放したな!」
横から、剣士が斬りかかってくる。
俺は注意深く目を凝らして、短剣を振りかぶる剣士の二の腕を掴んだ。
俺の首筋を狙った短剣が、浅く食い込んだところでピタリと止まる。
目が合ったのでニヤリと笑うと、剣士は絶望的な顔をした。
「なっ、何なのだ貴様はっ!」
「お前の方こそ誰だよ」
俺は左手で剣士の体を固定したまま、右の拳を振り抜いた。
脳を揺らされて棒立ちになったところを、追撃のラリアットでトドメを刺す。
床に叩きつけられ、首と後頭部に強い衝撃を受けた剣士は、ピクリとも動かなくなった。
「あと一人。――――お前で最後だ」
俺は剣士が落とした短剣を拾い上げると、先程、自分がされたように、その場に座り込む魔法使いを狙って、思い切り投げつけた。
「ひいっ!」
短剣は、既に戦意を喪失している魔法使いの腕に命中したが、幸運にも刺さらなかった。
「運が良いじゃん。俺は刺さったのによぉ」
「く、くそっ!」
魔法使いは自棄になったのか、もう一度、炎の塊を飛ばしてきた。
俺はそれを今度は右手で払いのける。
「熱いんだよ。ぶっ殺すぞ」
「ば、化け物め!」
「人聞きが悪いことを言うなよ」
俺は助走をつけて、魔法使いの腹を蹴り上げた。
「うぐっ! ぐぅぅぅぅぅぅ……」
手加減をしたので、気絶には至らない。
その分、地獄の苦しみを味わうことになるのだが。
「苦しいだろ? 気絶できないのは辛いよな?」
「も、もう、ゆるじで……」
「駄目だね」
俺は無慈悲に突き放すと、今度は顔面を蹴り飛ばして、魔法使いの意識を刈り取った。
「よしっ。……敵が七人いても、意外に何とかなるもんだな」
『相変わらず、耐久力が常軌を逸していますね。……お疲れさまでした』
「おう」
しかしながら、見事にまんべんなく全身を負傷してしまった。
ゲンジロウ爺さんから貰った籠手と鎖帷子もちゃんと装備しているのに、なぜか守られていない箇所にばかり攻撃を食らっている。
(明日から、俺だけ朝の稽古が厳しくなりそうだな……)
俺は明日からの苦労を思ってため息を吐き、侵入者が群がっていた扉の前に歩み寄った。
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