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勇者の守護天使(天使視点)

きりのよいところまで毎日投降できるように頑張ります。

 その日、急な辞令があり、上司から呼び出しを受けた。


 事前連絡もなく、いきなり辞令が出るのは珍しいことだ。


(緊急の案件かな? 昇格なら嬉しいんだけど、残念ながら心当たりがまったく無い)


 とはいえ、降格するようなヘマもやらかしていない。


(異動かなぁ。地球の担当から外れるのは嫌だなぁ)


 そんなことを考えながら扉をノックして執務室に入ると、主天使の上司が待っていた。


 ここは天上――――三千世界にあまねく目を光らせる「世界管理機構」の中心部。


 そして、僕は太陽系の地球を担当する一介天使。


 名前はタロエル。


 階級はまだ一番下だが、いつかは昇格して家族に楽をさせてあげたいと考えている若手のホープ(自称)だ。


 執務室には、僕と同じく地球担当の同僚が十人ほど整列していた。


「山田か。お前が最後だぞ。さっさと並べ」


「あ、はい」


 上司に促されて、僕は列の左端に並んだ。


「はい、それでは全員揃ったので辞令の内容を読み上げまーす」


 上司は懐から封筒を取り出すと、中に入っていた辞令を軽い口調で読みはじめた。


 あまりの威厳の無さに、思わず気が抜けてしまいそうになるが、これでも天使の階級は上から四番目の超絶エリートなのだ。


 階級の割には話しやすいという点では、良い上司だとも言える。


「――――で、最後に、山田タロエル。以上の者を、勇者の守護天使に任命する」


 おお。


 やった。


 よっしゃ。


 思わず口をついて出た感じの歓声が、あちこちから聞こえた。


 僕も気が付けばガッツポーズを取っていた。


 勇者とは、世界の救世主になるために生まれてくる特別な人間のこと。


 そして、守護天使とは、特定の個人を護り、導く天使のことだ。


 担当した人間の功績が、そのまま守護天使の功績になる。


 つまり、勇者の守護天使になるということは、勝ち馬に乗るようなものなのだ。


 はっきり言って、出世コース。


 僕は、隣の同僚と抱擁し、肩を叩き合って喜んだ。


「た・だ・し、そんなに甘い話はありませーん」


 このまま万歳三唱や胴上げでも始めそうな勢いで浮かれていた僕たちを、上司の声が一瞬で現実に引き戻した。


「よく考えてもみろ。勇者というのは、世界が瀕している危機の度合いに応じて、十年から数十年に一人の割合で生まれてくる特別な人間のことだぞ? お前たちは何人いる? まさか、全員が勇者の守護天使になれるなんて思っていないよね?」


「えぇ……」


 だったら、ぬか喜びをさせないでほしいのだが、言われてみれば確かにその通りだ。


 勇者という存在の希少性に対して、僕たちは人数が多すぎる。


「というわけで、これから勇者の守護天使に相応しい一名の選抜試験を始める」


「一名か……」


 いきなり競争率が跳ね上がった。


 上司は僕たちを見渡すと、格闘技の審判員よろしく激しく腕を交差させた。


「バトルロワイヤルだ! さあ、殴り合え!」


「え? ぐほぉっ!」


 疑問の言葉を口にするよりも早く、僕はついさっきまで共に喜びを分かち合っていたはずの同僚から、横っ面をグーで殴られた。


「――――というのは冗談だから早まらないように」


「……」


 倒れた僕にとどめを刺すべく拳を振り上げていた同僚は、ぴたりと動きを止める。


 そして、無言のまま拳を下ろすと、何事も無かったかのように立ちあがった。


「タロエル、立てるか?」


「立てねぇよ!」


 転んだ友人を助け起こすかのように手を差し出してきた同僚を、僕は激しく糾弾した。


「だって、仕方ないだろう? 俺だって迷ったんだけどさ」


「いいや、迷ってないね! ゼロコンマ数秒で殴られたね!」


「山田、もういいだろう。そいつも悪気があったわけじゃないんだ」


「ぐ……。わ……分かりました」


 この場で唯一、悪気があった奴にだけは言われたくないセリフだが、それを指摘することも許されないほどの階級格差が、僕と上司の間にはある。


「さて。冗談はこれくらいにして、真面目な話をしようか」


 上司は咳払いをして、表情を真剣なものに切り替えた。


「実は、困った問題が発生した。本来、別の世界に生まれるはずだった勇者の魂が、何らかの手違いで地球に生まれていることが分かったんだ。しかも、百年前からずっとだよ」


「百年前から? 今まで気が付かなかったんですか?」


「存外、気が付かないものだよ。何しろ、今の地球には人類の天敵がいないからね。むしろ、百年も勇者が現れなかった世界の方がマズい状況になっていて、そっちの世界の担当者が調べた結果、問題が発覚したんだ」


 こっちは巻き添えを受けたようなものだよ、と。


 上司は面倒くさそうにボヤいた。


「勇者が出現しなかった世界は、今、危険な状況なんですか?」


「剣と魔法のベタな世界なんだけど、悪魔の陣営に世界の約七割を支配されている」


「七割……」


 上司の返答に、僕たちは顔をしかめるしかなかった。

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別作品の「異世界人事部転生」もよろしくお願いします。

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