キドゥーシュプカ防衛戦 その二
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一面の花畑だった場所は、所々が乱暴に掘り返されたように荒れ果てていた。
恐らく、竜の咆哮によるものだろう。巻き添えを食らったと思われる兵士があちこちに倒れているが、今は一人一人を介抱している時間はない。
(農夫っぽい服装の奴も倒れているな……)
だとすると、農夫の格好をした者すべてが侵入者ではないのかもしれない。
敵の数が減るのは良いことだが、今度は敵と味方の判別が難しくなるという別の問題が出てくる。
(面倒くさい。全員、ぶん殴ろう。殺さなきゃいいや)
『またポイントが減るパターンだわ、これ……』
山田のボヤキを聞きながら迎賓館までの道のりを最短距離で走り抜けると、入口のところで農夫と取っ組み合っているアルバレンティア王国の兵士の姿があった。
「これは分かりやすい」
俺は声を掛けずに接近すると、農夫に渾身の飛び蹴りを食らわせた。
「ぎっ!?」
体重百キロ超の全体重を乗せた弾丸キックだ。
農夫の体は人身事故のような勢いで転がった。
「勇者様!?」
「おう。勇者様だぞ」
俺は驚く兵士に軽く手を上げて応えると、そのまま仰向けに倒れている農夫に歩み寄り、
「しばらく眠っとけ!」
顔面に強烈な張り手を食らわせた。
ビリビリと痺れる掌を退けると、そこには白目を剥き、鼻血を垂れ流し、前歯が数本欠けた農夫の顔面があった。
『うわぁ……。これ、永眠してません?』
(手加減はした)
メイスで殴ることも、グーで殴ることもできたのだから、はっきり言って張り手は温情だ。これで永眠するようなら、体の鍛え方が足りない。
「こいつ、敵だろ?」
「はい! 助けを求めてきたため避難場所に誘導しようと背を向けたところ、突然、後ろから襲い掛かってきまして」
ゲンジロウ爺さんの予想したとおりだ。
恐らく、兵士が一人きりだったので、倒せると判断して不意打ちを仕掛けたのだろう。
「当分は目を覚まさないと思うけど、一応、拘束しておいてくれ」
「了解いたしました! ありがとうございます!」
兵士は畏まった様子で敬礼をする。
「他の奴らはどうした? ロザリアは無事だろうな?」
「他の者はロザリア殿下の命により、竜退治に向かいました! ロザリア殿下は数名の護衛と共に、大聖堂に退避されています!」
「……自分から護衛を減らすようなことをしやがって」
どうせ、こんなに多くの護衛は要らないとか、竜を退治できなければどこに避難しても一緒だとか、そんなことを言い出したのだろう。お人好しの思考は、容易に想像できる。
「分かった。見てのとおり、敵は農夫の格好をして紛れ込んでいるから、他の連中にも注意喚起をして回ってくれ」
その後、俺は兵士と幾つかの言葉を交わすと、踵を返して大聖堂に向かった。
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