詐欺師のテクニックで切り抜ける
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「それでは本題に入ろう」
ボルゾイがそう言った時、室内の空気が引き締まったように感じた。
「我々が聞きたいのは、主に三つ。君の素性、君の目的、そして、昨晩、森で倒れるに至った経緯だ」
「要するに、全部じゃないか」
「そういうことだ」
理解が早くて助かると、ボルゾイは喉の奥で噛み殺すように笑った。
(随分と上機嫌だな)
『気に入られたんじゃないですか? これはライカちゃんの攻略ルートありますよ』
(何のゲームだよ)
俺は山田の発言を無視して、ボルゾイの質問にどう答えたものかと思案を巡らせた。
その場しのぎの嘘は、すぐに見抜かれてしまうだろう。
だが、本当のことを話しても、信じてもらえる可能性は低い。
であれば―――
「俺自身、自分の身に何が起きたのか、よく分かっていないところがある。だから、もしかすると、荒唐無稽な話に聞こえるかもしれないけど、そこは勘弁して欲しい」
最初に断りを入れると、ボルゾイをはじめ、その場の全員が了承の意思表示をした。
「まず、俺の名前は鬼怒川覇王丸だ。人間の男で、日本という国で生まれた」
「日本? 聞いたことのない国名だな」
「小さな島国だ」
「なるほど……。島国か」
それならば、国名を知らなくても不思議ではない、と。
ボルゾイたちは、勝手に都合の良い解釈をして、勝手に納得してくれた。
どうやら、虚実を織り交ぜて説明する作戦が功を奏したようだ。
『それ、詐欺師のテクニックですよ』
山田が何か言っているが、気にしないことにする。
「俺は故郷で平和に暮らしていたが、ある日、訳が分からないうちに戦いに巻き込まれた。俺はろくな抵抗もできずに不思議な力で遠くに飛ばされて――――気がついたら、森の中にいたんだ」
「戦いというのは、魔王軍が攻め込んできたということだろうか?」
「多分、そうなんじゃないか? 俺はただの農家の息子だから、詳しいことは分からない」
「不思議な力というのは? 魔法のことかね?」
「突然、目の前に黒い穴が開いたと思ったら、それに飲み込まれたんだ。俺にその力を使った奴は、別の世界まで飛ばしてやると大げさなことを言っていた。移動の負荷に耐えられずに、途中で死ぬだろうとも言っていたな。自分でも生きていたのが不思議なくらいだ」
「あの……」
俺がボルゾイからの質問に答えていると、山賊のおっさんがおずおずと挙手をして、発言の許可を求めてきた。
「昨夜、こいつを森の中で発見したのは、夜警にあたっていた俺の班です。回復薬を使ったので、外傷こそ消えていますが、昨夜のこいつは本当に酷い有り様でした」
「私も確認しています。昨夜、負傷者を保護したとの連絡を受けて、治療にあたりましたが、常人では正常な意識を保っていられないほどの大怪我でした」
なんと、山賊のおっさんとライカが、俺の証言を補強してくれた。
それにしても、やはり、転移した直後の俺は、相当な重傷だったようだ。
「――――念のために訊くが、彼を保護した現場に、争ったような痕跡はあったか?」
「記憶している限り、そのようなものはありませんでした。周辺も探索しましたが、魔王軍はおろか、大型の獣がいた痕跡すら無かったので、なぜ、これほどの大怪我をしているのかと、あの時は不思議でなりませんでした」
「魔法で飛ばされたと考えれば、辻褄が合うということか。そのような魔法は、聞いたことがないが……。森人の方々は何か知っているだろうか?」
「森人?」
『いますよ』
山田が当然のように言うので、ボルゾイの視線の先を追いかけると、整列する要人の中に、たしかに長身で痩躯、耳が細長く尖っている森人の男たちがいた。
(あの二人か。ただの人間だと思ってた)
『美形じゃないから見過ごしちゃいますよね』
山田がしれっと酷いことを言っているが、実際、そうなのかもしれない。
なにしろ、日本で知名度の高いエルフといえば、漫画やゲームに登場する美形キャラばかりだ。
俺にもそういう先入観が無かったとは言い切れない。
平凡な容姿の二人の森人は、小声で話し合った後、首を左右に振った。
「申し訳ありません。私たちも、そのような魔法は初めて知りました。はじめは飛翔魔法の派生や応用ではないかと思ったのですが、それでは黒い穴に飲み込まれたという話と符合しません。恐らくは、未知の魔法ではないかと……」
(魔法じゃなくて、奇跡なんだけど)
勿論、余計なことを言っても話がややこしくなるだけなので、訂正はしない。
ボルゾイは森人の意見を聞いて、自分自身を納得させるように、何度か頷いた。
「まあ、よいだろう。実際に体験した本人が、荒唐無稽な話だと言っているのだ。我々が話を聞いただけで、全容を解明できるはずもない。この件はひとまず保留。集落の皆には覇王丸について、魔王軍に襲われて、森で倒れていたところを保護したと説明するように」
「了解いたしました」
正に鶴の一声。ボルゾイの指示に、要人たちが一斉に首を垂れた。
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