砦の獣人たち その五
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「もう一つは、砦を襲撃した罪を負う者を、できるだけ少人数に限定してほしい。男手が全員処罰されてしまっては、集落を維持することができない」
「一応、頼んでやるよ。ただ、確約はできないけど」
その代わり、俺には別の提案をすることができる。
「もし、お前たちがこの土地で暮らすことに執着しないなら、国外追放って選択肢もあるぞ。こっちは確約をもらっている」
「国外……? それはどういう……?」
「さっき説明しただろ」
不思議そうな顔をするオルツたちに、俺はもう一度、大森林の現状を説明した。
「そんなわけで、お前たちが丸ごと移住しても、余裕で受け入れるくらいの広さはあるから、その気があるなら新天地で生活することもできるぞ。多分、仕事もある」
「し、しかし、失礼ながらそこまでの権限が貴方にあるのか? 百名もの獣人が国境を越えるなど、許可が下りるとはとても……」
「大丈夫だって。こっちには王国の王女も、教会の聖女も味方にいるし、王様からも最大限の便宜を図ると約束してもらっているし、大森林の領主は俺の操り人形みたいなものだから」
国境越えも移住もまったく問題ない、と。
俺が気安く請け負うと、オルツたちは唖然とした表情で言葉を失った。
「どうする?」
「あ、ああ……。少しだけ、仲間と相談する時間をもらえないだろうか? さすがにこれは、私の一存では決めかねる」
「いいぞ」
俺が頷いた時、
「ん?」
遠くから風に乗って、鐘の音が聞こえてきた。
「何の音だ?」
「大聖堂の鐘かの。ちょうど昼のようだ」
ゲンジロウ爺さんが耳を澄ましながら、独り言のように呟く。
「こんなに遠くまで聞こえるのか」
昨日も、一昨日も、正午の鐘の音は耳にしているのだが、正直、そんなにうるさいとは感じなかったので、ここまで聞こえてくるとは思わなかった。
ロザリアが国中に響き渡ると言っていたが、誇張表現ではないのかもしれない。
俺たちがぼんやりと空を見上げながら、鐘の音が聞こえなくなるのを待っていると、今度は砦の方からけたたましく鐘が鳴り響いた。
ただし、それは正午の時報ではなく、非常事態を知らせる警鐘。
誰かの「竜だ!」という叫び声が聞こえた。
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