砦の獣人たち その一
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村から砦までの移動時間は、体感で小一時間ほどだった。
木陰から上方の開けている場所を仰ぎ見ると、切り通しのような一段高い崖の上に、丸太の柵と物見櫓らしきものが存在している。
見た感じでは、かなり堅牢な砦のようだ。
「枢機卿は野営地のようなものだと言っていたのに、話が違うじゃねーか」
「内側に入ってしまえば、そのようなものです」
リッタの説明では、獣人に気取られないように一夜城よろしく突貫工事で作ったため、柵の内側はまだ砦としての体をなしていないらしい。
実際、獣人にあっさりと攻め落とされているので、そのとおりなのだろう。
「これ以上近づくと、物見櫓から矢で攻撃をされます」
「そうか。それじゃあ、俺とゲンジロウ爺さんとライカの三人が先に行くから、お前らは少し後ろからついてこい。矢が飛んできても、絶対にヒナに怪我をさせるなよ」
「了解いたしました」
リッタの返事と同時に、護衛の兵士全員が俺に敬礼した。強硬派の男も例外ではない。
それは意外だったが、よく見ると物凄く不本意そうに顔をしかめていたので、逆に安心した。
「よし、それじゃ行くぞ。ライカはフードを被ってくれ」
そう言って、シスターベール風のフードをライカに被せる。
「それを被ると、ライカ嬢ちゃんが獣人だと向こうが分からんのではないか?」
「最初から獣の耳を出していると、俺たちが獣人を人質にしていると勘違いされるかもしれない。それよりも、できれば先に攻撃させて、それが通用しないと分からせてから、正体を明かした方が交渉に持っていきやすい」
「……図体はデカいくせに、いろいろと細かいところまで考えるものだ」
正直、感心するぞ、と。ゲンジロウ爺さんは呟いた。
「うるさいな。それよりも、本当に矢を逸らせるんだろうな?」
「そこは任せておけ。ただ、二人ともワシの近くから離れんように」
俺とゲンジロウ爺さんは互いの目を見て頷き合うと、ライカを背後に庇うようにして二人で並んで歩きだした。
*
前回、駐留部隊が攻め込んだ時と同様、今回も獣人側は迎撃の準備を整えて待ち構えていたようだ。
俺たちが弓矢の射程に入ると、柵の陰から十名弱の獣人が弓に矢をつがえた状態で上半身を覗かせた。
柵の裏側に足場が作ってあるようだ。
「止まれ! それ以上、進めば攻撃する!」
その声に、俺たちはいったん立ち止まって、砦を見上げる。
(ん? ……獣の血が濃い獣人ばかりだな)
柵から姿を現したのは、犬やら狼やら熊やら、動物の顔をした獣人ばかりだった。
何となくオターネストの魔王軍を思い出してしまう。
(単なる戦闘要員なのか? それとも、まさか獣の血が薄い獣人は一人もいないのか?)
前者なら作戦に支障はないが、後者なら面倒なことになる。
獣の血が濃い獣人だけのコミュニティは、獣の血が薄い獣人を半端者として見下す傾向があるからだ。
その場合は、ライカの正体を明かしても、交渉に持ち込めないかもしれない。
(……まあ、そうなったら、爺さんに暴れてもらうだけか)
ここで一時撤退したところで、腹案は無いのだ。
俺は割り切って、攻撃の意思が無いことをアピールするために両手を上げた。
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