乗り気がしないけど出発する
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しばらく待つと、駐留部隊から選抜されたヒナの護衛がやって来た。
総勢十人くらいだろうか。全員が全身鎧に大きな盾を担いでいる。
さすがに俺の言いつけを守って、武器は携帯していないようだ。
だが、護衛の中に、最初に俺に食ってかかって来た強硬派の男が混ざっていたので、それに気が付いたライカが息を飲むのが分かった。
「リッタさぁ……。こいつを選ぶなよ。さっきのひと悶着からの流れがあるだろ」
少しは空気を読んでほしいものだ。
俺が不満を隠しもせずに強硬派の男を指さして文句を言うと、強硬派の男は俺を睨み返し、リッタは板挟みになって狼狽えはじめた。
「いや、その。私も今回は遠慮するようにと勧めたのですか……」
「聖女様をお守りすることと、獣人の件はまったく関係ない。それに、そちらにとって都合の良い人選で固められては、隠れて何をするか分からない。私は監視役のようなものだ」
「偉そうに……」
俺は舌打ちをして、強硬派の男と睨み合った。
「ヒナの護衛はちゃんとやれよ」
「無論だ。この命に代えても聖女様はお守りする」
「ライカに変なちょっかいを出したら、今度こそ俺かゲンジロウ爺さんのどっちかが、お前を殺すからな」
俺の武器はメイス――――鉄の棍棒なので、全身鎧を着ていようとお構いなしだ。
ゲンジロウ爺さんは刀なので全身鎧とは相性が悪そうだが……。
(斬れないイメージが思い浮かばない)
『普通に「ふんっ」とか言って斬っちゃいそうですよね』
俺と山田の頭の中で、どんどんゲンジロウ爺さんが化け物になっていく。
「一度、警告はしているからな。爺さん、次は問答無用で、いきなりお前の首を斬り落とすぞ。殉職したくなければ、ヒナの護衛に専念するんだな」
「……ふんっ」
強硬派の男は強がって鼻を鳴らしたが、目の前で同僚が紙クズのように吹き飛ばされるところを見ているため、その表情は強張っていた。
(いい気味だ)
『ばーか』
俺は当然として、山田も強硬派の男に対しては容赦が無い。
ライカの存在は、俺だけではなく山田にとっても逆鱗のようだ。
変に仲間意識を持たれても気持ち悪いので、あえて言及はしないが。
「それじゃあ、早速で悪いけど、砦まで案内してくれ」
「はい。――――砦はあそこに見える北の林を通り抜けた先にあります」
そう言うと、リッタは遠方に見える林を指差した。
大森林には遠く及ばないが、それなりの広さのようだ。その後方は険しい山岳地帯になっている。
「林道と山道が直結しておりまして、少し登った先に平らな開けた場所があり、そこを見下ろすような位置に砦があります」
「平らな場所に出たら、弓矢で狙い撃ちってわけか。……なんで、上から降りてくる連中を足止めするための砦なのに、下からも攻め込まれないようになっているんだよ?」
「砦とは、本来、そういうものなので……」
柔軟な思考ができず、ノウハウ通りに作ることしかできなかったのか、あるいは砦として完璧なものを作ろうとした結果なのか。
「獣人が麓まで降りてきていることはないのか?」
「少数の斥候が林に潜伏しているようです。我々が砦に向かった際も、迎撃の準備が整った状態で待ち構えておりました」
「面倒くさ……」
非常に難儀な話ではあるが、砦を奪い返さないことには、いつまで経っても帰ることができないし、そもそも「できませんでした」では、公式見解を修正してもらえない。
「やるしかないか。……よしっ、出発しよう」
俺は空元気を出して、全員に出発の号令をかけた。
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