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進化の魔王と覚醒の覇王。 ~転生する前から世界最強~  作者: とらじ
アルバレンティア王国と神聖教会編
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皆がいて良かった

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

隔日で更新できるように頑張ります。

「まだ、細かな力の制御には不慣れでの。もし、巻き添えで当たった者がいたなら申し訳ない」


 強硬派だと思われる兵士の一人を、恐らくは風の魔法で吹き飛ばしたであろうゲンジロウ爺さんは、悪びれた様子など一切なく、挨拶をするような軽い口調で謝った。


「先程から見ていれば、年少者の真摯な言葉に対して、あまりにも傲慢な対応。また、客人に対する態度とも到底思えない。故に、こちらで勝手に処罰させていただいた」


「は、はあ……」


 突然、話しかけられたリッタは、助けを求めるようにきょろきょろと視線を彷徨わせるが、当然ながら誰も助けない。


 駐留部隊の兵士は勿論のこと、俺も、ライカも、呆気にとられていた。


「本来ならば、瓶を投げた者全員の素っ首を斬り落としてやりたいところだが、今回は警告に留めて、これで手打ちにする。もし、ワシのしたことに不満があるのなら、法王猊下にでも、ロザリア殿下にでも、好きに注進するがよかろう」


「い、いえ! 先程の行為は、我々に非がありました。この程度で不問にしていただけるのであれば、むしろ感謝しなければなりません」


 リッタは狼狽えながら、どうにかゲンジロウ爺さんに機嫌を直してもらおうと、必死に場を取り繕おうとする。


 だが、ゲンジロウ爺さんの態度は実に素っ気ないものだった。


「さようか。それならば、ワシらは村の入口で待っておるので、さっさと護衛を選抜したら、砦まで案内してもらおうか」


「今すぐに向かわれるのですか? 少しお休みになられた方が……」


「まだ、昼前だからの。早く片付ければ、今日中に帰路に付ける」


 こんなところに長居はしたくないと言わんばかりに、ゲンジロウ爺さんは一方的に話を打ち切ると、俺たちに目配せをした。


「ライカ、行くぞ」


「は、はい」


 ライカはまだ状況が把握できていないらしく、戸惑いながら俺の手を握った。


 一時的にではあるが、先程の深い悲しみは頭から抜け落ちているようだ。


 俺も、先程まで頭の中を覆い尽くしていたマグマのような負の感情が、ゲンジロウ爺さんの剣幕にあてられて、嘘のように消し飛んでしまった。


『毒気を抜かれた感じですか?』


(そうだな)


 もしかすると、これがゲンジロウ爺さんの狙いだったのかもしれない。


「ヒナも行くぞ」


「はい」


 ヒナは頷くと、何を思ったのか駐留部隊の兵士たちに向き直った。


「ライカちゃんは、ヒナのお友達です。お友達が悪いことをしたら、ヒナはちゃんと叱ります。でも、お友達が何も悪いことをしていないのに悪く言われたら、ヒナは怒ります!」


(おお……)


 俺は胸がすくような思いで、駐留部隊を怒鳴りつけているヒナを見ていた。


 よくぞ言ってくれた、という感じだ。


「それはそれとして、護衛はよろしくお願いします!」


(すげぇな)


『無敵すぎる』


 その会話の流れで、そのセリフを堂々と口にできるとは。


 やはり、ヒナは並みの十歳児ではないようだ。


 俺は小走りで近づいてくるヒナの頭を、若干の尊敬の念を込めて撫でた。


「ほれ。さっさと、外に出るぞ。ここは空気が悪い」


 少し先では、ゲンジロウ爺さんが急かすように手招きをしている。


 俺はライカの手を引いて、ゲンジロウ爺さんの横に並んだ。


 ちなみにヒナはライカと手を繋いでいる。


「爺さん、かなり怒ってんな?」


「ワシが動かんかったら、おぬしが暴れとっただろうが」


「うん。殺すつもりだった」


 俺の発言に、ライカがぎょっとした顔で俺を見る。


「人死にが出たら、さすがに庇いきれん。これ以上、ロザリア様の負担を増やすな」


「じゃあ、怒ってないのに、怒っているふりをしたのか?」


「……そう見えたのなら、おぬしの目は節穴だの」


「ああ、うん。分かった」


 前言撤回。くっそ怒っている。


 ゲンジロウ爺さんがここまで怒ったところは、初めて見た。


「おい、覇王丸。交渉がうまくいかなかった場合、砦はワシとおぬしの二人で落とすぞ」


「二人で? できるか?」


「弓矢は風の魔法で無力化できるし、白兵戦なら何人いようが負けはせん」


 ゲンジロウ爺さんは、当然のことのように断言した。俺も刃物無しのタイマン勝負ならば、たいていの奴に勝つ自信はあるが、大勢に囲まれるとどうにもならない。


 もしかして、ゲンジロウ爺さん一人でも砦を攻め落とせるのではないだろうか。


「こんなところには一泊もしたくないからの。今日中に片づけて、簡単だった、なぜ砦を奪われたのか分からんと、奴らの無能さを大聖堂に報告するとしよう」


「ははっ! それはいいな!」


 俺はなんだか楽しくなって、思わずゲンジロウ爺さんの肩に腕を回した。


「重い。肩を組むな」


「いやー。俺、この世界で最初に会った勇者仲間が爺さんで、本当に良かったよ」


「……はあ。それは光栄だの」


 ゲンジロウ爺さんはしかめ面のまま、だが、まんざらでもなさそうに口角をつり上げた。


「覇王丸様! ヒナはどうですか!?」


「爺さんの次に会った勇者がヒナで良かったよ」


「ですよね!」


 ヒナは満面の笑顔だ。


「あ。勿論、この世界に来て最初に会ったのがライカで、俺は良かったと思っているぞ?」


 ライカと目が合ったので、いかにもフォローするような口ぶりで本心から思っていることを伝えると、ライカはフフッと微笑んだ。


「最初に会ったのは、私じゃなくて夜警のおじさんたちですよ?」


「山賊のおっさんはいいんだよ。ノーカンだから」


「何ですかそれは」


 俺はわざと明るく振る舞って、先程のことを記憶の片隅に追いやろうとした。


 この場に、ヒナとゲンジロウ爺さんがいてくれて、本当に良かった。


 さっさと用件を済ませて、アルバレンティア王国に帰ろう。


 別行動を取っているハウンドとも合流して、全員で旅を続けよう。


 その時、俺はそんなことを考えていた。

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[一言] え?何その不穏な…:( ˙꒳˙ ;):
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