里長のボルゾイ
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里長の屋敷は、住居と仕事場を兼ねており、建物の右半分は、多人数で集まって話し合いができる集会所として、ほぼ一日中、集落の住人に解放されているらしい。
ただ、現在は俺の事情聴取のため、貸し切り状態になっているようだ。
「遅れて申し訳ありません。途中でハウンドの奴に捕まりまして」
入室するなり、山賊のおっさんはペコペコと頭を下げながら、謝罪の言葉を口にした。
室内には、集落の要人が十人ほど集まっていた。その大半は獣人だが、何人か普通の人間の姿もある。
彼らは一様に、ただ一人の獣人の後ろに控えるようにして、壁際に整列している。
最奥の上座に腰掛ける集落の里長。名前はたしか、ボルゾイだったはずだ。
その姿を見て――――
「白い犬だ」
「お前、少しは学習しろよ!」
「いてぇ!」
ライカやハウンドの時には静観していた山賊のおっさんが、今回は血相を変えて、俺の頭を引っ叩いた。
「す、すみません、ボルゾイ様! こいつは少し頭がおかしいといいますか。本人にも決して悪気があったわけでは……」
「よい」
山賊のおっさんの言葉を制して、ボルゾイが口を開いた。
『さすが。貫禄がありますねぇ』
山田が感心しているが、正にそんな感じだ。
集団の中で自分が最強だと自覚していなければ出せない風格のようなものがある。
眼光は鋭く、声は意外に若い。ライカの髪と同じ真っ白な毛並みは神々しいほどだった。
(お?)
俺は、壁を背に整列する要人の末席に、ライカの姿を見つけた。
昨日の礼を口にしようかと思ったのだが、俺と目が合った瞬間、ライカは赤面してぷいっと顔を背けてしまった。
(もしかして、怒ってるのか?)
『なんで意外そうなんですか? 昨日、それだけのこと(セクハラ)をしましたよね?』
(マジかよ……。後で謝っておくか)
正直、尻を出してゴメンと謝るのは超絶カッコ悪いのだが、背に腹は代えられない。
だが、いずれにしても、謝罪は後まわしだ。
俺は気持ちを切り替えて、ボルゾイに向き直った。
「たしか、名を覇王丸と言ったかな?」
「そうだ」
「なるほど。娘から聞いたとおりの巨躯だな。私の服の着心地はどうだね?」
「少し小さい」
「そうかそうか。私よりも体の大きい人間がいるとは」
ボルゾイは楽しそうに笑った。
「だが、当面はそれで我慢してほしい。見たところ、靴も履いていないようだが……」
「ああ。最初から履いていなかった」
なにしろ、この世界に転移した時、俺は病院のベッドに寝ていたのだ。何も履いていなくて当然だろう。
要するに、山田が悪い。
「やはり、不便かな?」
「無いよりはあった方がいいな」
「では、後で作らせよう。――――ライカ、頼めるか?」
「畏まりました。後ほど、職人のところにお連れします」
ボルゾイが目配せをすると、ライカはすぐに自分のすべきことを察知して、敬礼を返した。
末席とはいえ、この場に同席することを認められているだけのことはある。
「うむ。いろいろと彼の面倒を見てあげてくれ」
ボルゾイは満足そうに頷き、さて――――と、俺に向き直った。
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