強硬派と穏健派
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話を一通り聞き終えた後、俺の胸中には一つの疑問が残った。
気が付けば、いつの間にかヒナは兵士の治療を終え、ライカも回復薬を配り終えていたが、そのまま話を続けることにする。
「あんたたち、武装した状態で砦に行ったんだよな? それは交渉も選択肢にあったのか?」
「いえ……。目的は、砦の奪還でした。現状のままでは、いつ獣人が麓に降りてくるか分かりませんので。もし、再び夜間に襲撃を受けるようなことがあれば、どうなるか……」
「仲間が人質になっているんだろ? 大丈夫なのか?」
俺が尋ねると、リッタは心苦しそうに顔を歪ませた。
「砦を奪われてから数日が経つのですが、未だに獣人から何の要求もないのです。とはいえ、近づけば問答無用で攻撃を仕掛けてきますし……。部隊内でも意見が割れておりまして」
リッタによると、人質の身の安全を第一に考えて、可能な限り交渉に持ち込むべきだという穏健派と、獣人と交渉すべきではないという強硬派の二つに意見が分かれているらしい。
(そんな状態のまま敵地に乗り込んだら、そりゃ返り討ちにされるわ)
あわよくば敵と交渉したいと考えている者と、敵を速やかに排除したいと考えている者が、有事の際にきちんと連携できるはずがない。
「ちなみに、今日、俺たちがここに出向くことになった本当の理由は、知っているのか?」
「はい。公式見解を修正するためであると。この場にいる者たちにも伝わっております」
「そうか」
先程から、俺に対して睨むような視線を向けてくる者がいるので、気になっていたのだ。
多分、そいつらが強硬派なのだろう。
(まあ、強硬派にとっては、公式見解を修正されるのは都合が悪いよな)
今までは自分の考えを正当化する免罪符になっていたものが、一転して今度は自分の考えを断罪する刃に変わるのだ。簡単に受け入れることはできないだろう。
まして、この場にいる駐留部隊の兵士たちは、実際に獣人の襲撃を受けて、敗走するという苦汁を飲まされているのだから。
獣人に対して悪感情を抱くのは、ある意味、当然だともいえる。
「――――まあ、強硬派の個人的な感情はどうでもいいんだけどさ。それはそれとして、俺の指示には従ってもらわないと困るぞ? 法王様にそう言われたんだろ?」
「それは勿論です。我々も信徒である以上、法王猊下のご命令に背くことはありません」
リッタは、今度は毅然とした態度で頷いた。
俺は続いて、ゲンジロウ爺さんとライカの方を向いた。
「爺さん、飛んでくる矢って風の魔法でなんとかなるか?」
「……そうだの。逸らすだけでよければ、どうにでもなる」
「そっか。――――ライカ」
「はい」
ライカが真っ直ぐに俺を見上げてくる。
「獣人と交渉するには、多分、ライカに一緒に来てもらう必要があると思う。今からここで、フードを取ってもらうかもしれないけど、それでもいいか?」
「はい。大丈夫です」
ライカは殆ど躊躇せず、即答で頷いてくれた。
「ありがとう」
俺はライカの頭をポンポンと撫でて、整列する兵士たちの方を向いた。
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