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進化の魔王と覚醒の覇王。 ~転生する前から世界最強~  作者: とらじ
アルバレンティア王国と神聖教会編
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ヒナは魔法が使えるらしい

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

隔日で更新できるように頑張ります。

 獣人に占拠された砦は、本当に大聖堂からそう遠くない場所にあった。


 早馬を飛ばせば一時間ほどで着いてしまう距離だ。


 俺たちは久しぶりにハックとヤマダが引っ張る自分たちの馬車に揺られて、昼前には早くも麓の村に到着してしまった。


 出迎えてくれた村の代表者に挨拶をした後は、駐留する部隊との顔合わせだ。


 村外れには、仮設のテントが建ち並ぶ避難所のような場所ができており、駐留部隊はそこで寝起きをしているようだった。


 心身ともに疲弊した様子の兵士が整列する中、俺たちはその正面に通された。


「お初にお目にかかります。私は駐留部隊を取りまとめております、兵士長のリッタと申します。只今をもちまして、私以下駐留部隊五十余名、勇者様の指揮下に入ります」


 そう言って、リッタと名乗る男が俺たちに敬礼をした。見た目は四十代くらいだろうか。


 軽装備の俺たちとは異なり、顔以外は全身鎧に身を包んでいる。


『プレートメイルってやつですね。これ、かなり重いですよ』


(見れば分かる)


 リッタの後方に整列する兵士の中にも、何人か全身鎧を身につけている者がいる。


「いつもそんな鎧で動き回っているのか?」


「いえ。これは弓矢から身を守るための対策です」


 リッタの話では、櫓の上から矢を射掛けてくる獣人に対して、全身鎧を着た兵士が最前列に立ち並び、全員で密集して、盾を傘のように掲げて接近するのだという。


「その作戦は成功したのか?」


「いえ……。ある程度まで近づくと、獣人どもが打って出てくるのです。そうすると、盾を上に掲げている分、不利になってしまって……。人数では我々が上回っているのですが」


「……言葉で説明されると、軽くあしらわれているように聞こえるな」


「お恥ずかしい限りです」


 リッタは申し開きの余地もないと、ため息をついた。


「言われてみれば、随分と怪我人が多いな」


 全身鎧を着た兵士に目がいったためすぐには気づかなかったが、よくよく見れば、整列する兵士の半分くらいが腕や脚に包帯を巻いている。


 これでは疲労困憊というよりも満身創痍だ。


 戦力としてはカウントせず、ヒナを守るための壁ぐらいに考えた方がよいのかもしれない。


「あの、覇王丸様」


 そんなことを考えていると、そのヒナが俺の服の袖をクイクイと引っ張った。


「何だ?」


「ヒナが怪我している人たちを治してあげてもいいですか?」


「ん? どういうことだ?」


 ヒナの言っていることの意味が分からなくて、聞き返す。


 すると、ヒナは俺に両手の掌を見せて、わきわきと指を動かした。


「ヒナ、治癒の奇跡が使えます。だから、兵士さんたちを治してあげてもいいですか?」


「「えっ!?」」


 俺とライカがほぼ同時に驚愕の声を上げた。


「治癒魔法が使えるのか?」


「はい、使えます! 使ってもいいですか?」


「あ、ああ……。いいんじゃないか?」


 俺が動揺しながらリッタに目をやると、リッタは顔を綻ばせて頷いた。


「お前ら、喜べ! 聖女様が治癒の奇跡を施してくださるそうだ!」


 リッタが最後まで言い終わらないうちに、兵士たちから歓声が上がった。


「ヒナ、奇跡を使えるのは十回までです! それより多くは、休まないと治せません!」


「だそうだ! 重傷の者から順に並べ!」


 リッタの言葉に「俺が」「いや俺が」と、元気いっぱいに名乗りを上げる兵士たち。


 ヒナのおかげで、それまでの重くて閉塞的だった空気が軽くなった。


(魔法を使えるとは聞いていたけど、治癒魔法だったのか)


『意外でしたね』


 だが、よくよく考えれば、ヒナは神聖教会の聖地で修道女と同じような生活を送っているのだから、治癒魔法を覚えたのは意外どころか当然の帰結なのかもしれない。


 そもそも、覚えたのが治癒魔法ではなかったら、ヒナは「聖女」とは呼ばれていないはずだ。


『あんなふうに怪我人を治療していたら、熱烈な信奉者が増えるはずですよね』


(本当だな)


 ヒナを取り囲む兵士たちの嬉しそうな表情を見ていると、そのうち神聖教会の内部が法王派と聖女派に分かれて、権力闘争を始めるのではないかとさえ思えてくる。


『もしかして、枢機卿がヒナちゃんを嫌っている理由ってこれじゃないですか?』


(……ああ、そういうことか)


 なるほど、と思った。あり得る話だ。


 理不尽な理由で治癒の奇跡を使えなくなり、失った力を取り戻すために懸命に努力している横で、勇者だという十歳の少女があっさりと治癒魔法を習得してしまったら、複雑な感情を抱いたとしても不思議ではない。


(それを、ヒナは「嫌われている」と勘違いしたのかもな……)


 運が悪いと言うか、間が悪いと言うか、幸が薄いと言うべきか。


 俺は心の中でブレーグに同情するのと同時に、そのブレーグから陣中見舞いの回復薬を渡されていたことを思い出した。


 ヒナの治癒魔法は十回が限度らしいので、あぶれてしまった軽傷の兵士には回復薬を配れば十分だろう。


「ライカ、枢機卿にもらった回復薬を――――」


「……」


「ライカ?」


 反応が無いので俺が顔を覗き込むと、ライカはハッと我に返った。


「な、なんですか?」


「どうした? ぼーっとして。まさか、ヒナが治癒魔法を使えたからショックを……」


「ち、違います! そ、そんなわけがないじゃないですか!」


 ライカは慌てて否定したが、露骨に目を逸らしているので嘘がまるわかりだ。


 まあ、望み薄だと知りながら、それでも僅かな可能性にかけて、治癒魔法を覚えるために毎日コツコツと頑張っていたところへ、新メンバーから「私、それ使えますけど?」と言われてしまったら、ショックを受けるだろう。


「あ、回復薬を兵士の皆さんに配るんですね?」


「まあ、そうなんだけど」


「分かりました!」


 ライカは早口でまくし立てると、その場から逃げるように回復薬を胸に抱えて、兵士たちに一本ずつ配りはじめた。


「リッタだっけ? あんたたちは、元々、砦に詰めていた部隊なのか?」


「そうです」


「そうか。じゃあ、待っている間、いろいろと話を聞かせてくれ」


 ヒナとライカが、それぞれ自分に与えられた仕事を終わるまでの間、俺はリッタから情報を仕入れることにした。

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