砦に出発
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翌日、いつもより早い朝食を食べた後、大聖堂の敷地の外、外堀に架かる唯一の橋の前に、砦攻めに参加するメンバーが集合した。
アルバレンティア王国からは、俺、ゲンジロウ爺さん、ライカの三人。
神聖教会からは、ヒナと、その親衛隊と化している衛兵が三十人ほど。
獣人に占拠された砦から最も近い村には、更に五十人ほどの正規兵が駐留しているらしい。
ちなみに、アルバレンティア王国の兵士は、ロザリアの警護が最優先であることと、ここが他国の領地であることを鑑みて、今回の作戦には不参加となっている。ゲンジロウ爺さんだけが例外だ。
「麓の村は、ここからそう遠くありません。馬車での移動なら昼前には着くでしょう。昨日のうちに使者を送っているので、到着次第、現地の部隊も覇王丸さんの指揮下に入ります」
そう言うと、法王は至近距離でなければ分からないくらい僅かに頭を下げた。
立場上、他人に対して頭を下げられないというのも難儀なことだ。
続いて、隣に立つロザリアがにこやかに微笑みながら、見送りの言葉を口にする。
「覇王丸様、ゲンジロウ様、いってらっしゃい。皆さんのご武運をお祈りしていますね」
「おう」
「恐悦至極にございます」
俺は適当に相づちを打ち、ゲンジロウ爺さんは格式張って一礼した。
最後に、法王とロザリアの後方に控えていたブレーグが前に進み出て、俺に回復薬の入った箱を渡してきた。
「陣中見舞いか?」
「そうですね。まあ、そのようなところです」
ブレーグは曖昧に頷くと、俺に向かって頭を下げた。
「昨日は大それたことを申してしまいました。深く謝罪いたします」
「そんなことは言っていないだろ。こんなの交換条件としては普通の要求だ」
「そう言っていただけると、ありがたい限りです。……砦とは言っておりますが、実際には櫓と柵を並べただけの野営地に近いものです。ただ、地形的に高所を取られますので、弓矢による攻撃にはお気を付けください」
「分かった」
俺が頷くと、ブレーグは早くも親衛隊に囲まれているヒナをちらりと一瞥した。
「聖女様は勇者殿を随分と慕っているご様子。彼女も同じ勇者ではありますが、ご覧のとおりまだ幼い少女です。どうか、聖女様をお守りください」
「分かってるよ。仲間に危害を加えようとする奴は、誰であろうと容赦しない」
「……よろしくお願いいたします。勇者殿に御加護があらんことを」
ブレーグは両手を組み、目を閉じて祈りを捧げた。
獣人に襲われたショックで治癒魔法が使えなくなり、毎日、縋るような思いでこんなふうに祈りを捧げているのかと思うと、たしかに同情すべき点はあると思う。
しかも、本人が獣人に対して「良くない感情」を抱いていると、きちんと自覚しているのが何とも悲しい話だ。
『まあ、根っこは善い人に見えますよね。ヒナちゃんのことも心配しているみたいだし』
(そうだな)
逆にこれがすべて演技ならば、誰にも本性を見抜くことはできないだろう。
そういう意味では、昨日、風呂でヒナが言っていたことの真偽が気になるところではあるが。
(こいつが嘘をついているかどうか、奇跡の力で調べられないのか?)
『無理ですよ。奇跡の力は覇王丸さんを対象にしたものしか使えないって、以前も同じことを言ったじゃないですか。そもそも、第三者を対象にできるのなら、覇王丸さんが魔法を覚えるまでもなく、僕が電撃で無双していますよ』
(それもそうか)
山田がたまに使う電撃は、本来、守護対象を戒めるためのものらしく、殺傷能力はないが、しばらく身動きができなくなるという、非常に使い勝手の良いものだ。
俺は今までに三回ほど、この電撃攻撃を食らっている。
(あれ? 電撃攻撃の仕返しって、したっけ?)
『したわ! かなり前にビンタを食らったわ!』
(そうか)
殴った方は忘れても、殴られた方は覚えているものらしい。
獣人に襲われて死にかけたブレーグが、その恐怖と恨みを清算できる日はくるのだろうか。
そんなことを考えて、俺は少しだけ憂鬱な気持ちになった。
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