みんなでお風呂(後編)
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
隔日で更新できるように頑張ります。
その後、元々長湯ではないらしいゲンジロウ爺さんが先に風呂から上がってしまったので、俺もさっさと体を洗い、女性陣を残して風呂を出ることにした。
「そういえば、今日は魔法の練習をしませんでしたね?」
泡立てた手拭いで俺の背中を擦りながら、ライカが思い出したように尋ねてきた。
俺の横でヒナが泡の塊を作って遊んでいるので、それを見て泥だんごを連想したのかもしれない。
「言われてみれば、そうだな。でも、風呂に入った後で泥だんごは作りたくないから、今日の練習はいいや」
「そうですね。今日は私もお休みします」
昨日の修道女のように手ごたえを掴みかけているのならともかく、現状、前進しているのか後退しているのかも分からない状態なので、一日くらい休んでも問題は無いだろう。
「そういえば、ロザリアは水の魔法が使えるんだよな?」
「はい」
「ロザリアは他人の練習を見るだけで、そいつの実力を判別できるか?」
「……えーと?」
ロザリアがいまいちピンときていない表情を浮かべたので、俺は昨日のブレーグとの別れ際のやり取りを簡単に説明した。
「それで、枢機卿は俺が作った泥だんごをちらっと見ただけで、すぐに上達する……みたいなことを言ったんだよ。それが気になってさ」
「はあ。そうですか。……私には分かりませんけど、ジョアンなら分かると思います。私が魔法を習得した時、私よりも先にジョアンが気づきましたから」
「それは、上級者なら見ただけで分かるってことか?」
「上級者で、なおかつ自分が使える魔法と同系統なら分かると思います」
ロザリアは湯船に寝そべるように仰向けになって、すっかりリラックスしている。
俺が話しかける度にいちいちロザリアの方を振り返っていることに気づいていないようだ。
(胸が浮いている……マジで浮くんだな……)
一瞬、後ろのライカにも教えてやろうかと思ったが、すんでのところで自重した。
ライカに教えても感動を共有することはできず、むしろ余計な悲しみを与えてしまうということに気がついたからだ。
「じゃあ、やっぱり枢機卿は適当なことを言ったのかな?」
「そうですね。ブレーグ枢機卿は治癒魔法の使い手だったので、他の系統の魔法には精通していないはずです。お世辞のつもりだったのではないでしょうか?」
「お世辞か……そういうタイプにも見えなかったけどな」
俺はふと、ヒナの方を見た。
「ヒナから見て、ブレーグ枢機卿ってどんな人だ?」
「日焼けしている人ですか?」
「そう」
「嫌いです」
「は?」
あまりにもきっぱりとヒナが言い切ったものだから、俺は冷や水をかけられたように思考が停止してしまった。
ライカも手を止めて、驚いたような表情を浮かべている。
「意外だな。何か理由があるのか?」
「あの人はヒナのことを嫌いだから、ヒナもあの人のことが嫌いです」
「……そうか?」
言われてみれば、ヒナが俺に同行すると言い出した時、神聖教会側の出席者が慌てふためく中、ブレーグだけは冷静に事後処理のことを口にしていたが――――
さすがに、それだけではブレーグがヒナを嫌っているという証拠にはならないだろう。
何か、ヒナに嫌われるような要素があるだろうか?
それとも、当人同士でなければ分からない何かがあるのかもしれない。
(……まあ、小さい子供って、結構、そういうところには敏感だからな)
根掘り葉掘り聞くのもヒナに悪い気がしたので、俺はそれっきりその話題を打ち切った。
「じゃあ、俺はもう出るよ。ヒナとライカはともかく、ロザリアは俺が見ていたら恥ずかしくて体を洗えないだろうからな」
「なんで私を除外するんですか!」
心外です、と。
激しく抗議するライカの声を聞き流しながら、俺は風呂から出た。
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