みんなでお風呂(中編)
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「そういえば、今日、枢機卿が言っていたことで、気になることがあるんだけど」
入浴中の話題が、とりとめのない雑談から、しだいに明日の砦攻めのことに変わったため、俺はふと思い出したことをロザリアとライカに質問した。
「魔人や竜の目撃証言があるって言っていたけど、どうなんだ? この世界の常識で考えて、あり得ることなのか?」
山田はオット大陸には魔人は殆どいないという理由で、説明を後回しにしていた。
そして、実際に俺はまだ一度も魔人を見たことがない。
そして、竜についても、地球では想像上の生物なので、この世界の竜がそれと同じなのかも含めて、俺にはまったく知識が無い。
「魔人も竜もオット大陸では殆ど見かけませんが……」
そう言って、ロザリアは言い淀んだ。
「だからと言って、まったくいないわけではないので、何とも言えませんね」
「私は、東の山脈には竜がいると、父上から教えてもらったことがあります。竜が人里に姿を現すことは滅多に無いとも」
ライカがボルゾイから聞いた話を口にすると、ロザリアも「そうですね」と頷いた。
「竜が人里に現れると、間違いなく領主が動いて、討伐隊が編成されることになります。竜は頭の良い生き物なので、余程の事情がない限り、わざわざ人間にちょっかいを出したりしないはずですが」
「余程の事情って、例えば何だ?」
「人間が竜を怒らせるようなことをした場合とか、冬場に食料を求めて家畜を襲うような場合でしょうか? いずれにしても、竜が現れたとなれば一大事なのですが、まだ討伐隊が正式に組織されていないところから察するに、未確認情報なのだと思います」
ということは、まだ「竜を目撃した」と言っている者がいるだけで、裏取りはできていない状況なのかもしれない。
「魔人についてはどうだ?」
「そちらは竜よりも信憑性が低いと思います。なにしろ、魔人が敵だという考え方は、今や神聖教会の公式見解という枠を越えて、人類の共通認識になっていますから」
例えば、もし、魔人が町に現れるようなことがあれば、王都に着いた時のハウンドのように悪目立ちするどころの騒ぎではなく、即座に捕縛ないし補殺するための戦闘行為が開始されるらしい。
だから、オット大陸では魔人が魔人と分かるような外見のまま行動することはなく、仮面を付けるなどして、正体を隠しているのだという。
「魔人って、獣人みたいに見ただけで判別できるのか?」
山田の話では、刺青のように痣が浮かび上がっている者ほど魔法が得意らしいが、痣の有無だけで魔人かどうかを判断するには、根拠として乏しいような気がする。
「聞くところによると、魔人は人間よりも皮膚が黒ずんでいるようです。あとは……角や牙が生えているとか、瞳の色が紅いとか、いろいろな噂がありますが」
「尾ヒレの付いたものが多そうだな」
「はい。私も見たことがないので何とも言えません」
結局、これも未確認情報のようだ。そもそも確定情報ならば、枢機卿もさらっと流したりはせずに、もっと強く警告してくるだろう。
「ただ、魔人が獣人を唆している……と考えると、獣人が急に敵対するようになったという枢機卿の話とも辻褄が合うので、完全にデマだと切り捨てずに、頭の片隅には留めておいた方が良いと思います」
「面倒くさいな」
「なにも、そこまで難しく考える必要はあるまい」
俺がボヤくのと同時に、それまで会話に加わろうとしなかったゲンジロウ爺さんが、唐突に口を開いた。
「竜であろうと魔人であろうと、敵対するのであれば我々としては対処するしかないのだからな。その時は斬り捨てればよいだけの話だ」
「それもそうだな。その方が分かりやすい」
即座に同意して頷き合う俺たちを、女性陣は苦笑いを浮かべながら見ていた。
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