ヒナが合流する
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
隔日で更新できるように頑張ります。
「出発の準備をしてきました! 今日はヒナも迎賓館に泊まります!」
大きな声で宣言したヒナが持ってきたのは、背負ったリュックと三個の木箱。
「引っ越しの段ボールみたいだな」
自分の部屋にあった物をすべて持ってきたのだろうか。
「中身は何だ?」
「祭服と本です!」
「聖女様の祭服は特別に仕立てた物なのです」
木箱を運んできたと思われる使用人の女性が、額に汗を滲ませながら補足説明をした。
たしかに、十歳のヒナに合うサイズの祭服は存在しないだろう。
「帰ってから特注で仕立てるよりは、持って帰った方が早いか……。それじゃあ、後で馬車に運ぶから、木箱はそこに置いて行ってくれ」
「畏まりました。……それでは聖女様、私はこれで失礼いたします」
「はい! 今までありがとうございました!」
「お元気で。聖女様のご活躍をお祈りしております」
屈託のない笑顔で感謝の言葉を口にするヒナに、使用人の女性は泣き笑いの表情で答えた。
「あの人、ヒナの世話係の人か?」
使用人の女性が退室した後、それとなく尋ねると、ヒナは笑顔で頷いた。
「はい。ヒナがこっちの世界に来てから、とてもお世話になりました!」
「寂しくないか?」
「覇王丸様がいるから平気です!」
(責任が重い……)
ヒナの身に万が一のことがあったら、マジで神聖教会から俺を弾劾する公式見解が出されそうで怖い。
俺は抱きついてきたヒナの頭を撫でながら、それを物言いたげな表情でじっと見つめているライカに目をやった。
「――――そうだ。ライカのことを、ヒナにも話しておいた方がいいよな」
少なくとも、これから仲間として寝食を共にする以上、ライカが獣人であることを隠し通すのは不可能だ。早ければ、今日の風呂か就寝のタイミングでバレてしまう。
俺は、ゲンジロウ爺さんとロザリアから反対意見が出ないことを目視で確認すると、ヒナの顔を覗き込んだ。
「ヒナ。これから俺たちが秘密にしていることを教えてやる。俺たちの仲間になった証だ。でも、ちゃんと秘密を守れるか?」
「勿論です!」
「誰にも教えちゃだめだぞ? さっきの世話係にも、法王様にも」
「お墓まで持っていく所存です!」
「その言い回し、どこで教わったんだよ……」
とにかく、決意は固そうなので、信頼しても大丈夫だろう。
「じゃあ、ライカ。いいぞ」
「は、はい」
ライカは頷くと、ヒナの見ている前で、シスターベール風のフードを取り去った。
銀色の毛並みに包まれた狼の耳が、姿を現す。
「かわいい!」
ヒナは開口一番、そう叫んだ。
目をキラキラさせてライカに駆け寄る。
「ワンちゃん? ライカさんはワンちゃんなんですか?」
「あ、いえ、狼なんですけど」
「触ってもいいですか?」
「あ、はい。どうぞ」
ライカは腰を屈めて、ヒナに頭を差し出した。
「うわぁ、柔らかい! ふかふかしてる!」
ヒナは夢中になってライカの耳をこねくり回している。
「何の抵抗もなく受け入れられたな……」
「小さな子供の反応は、だいたいあんな感じだと思いますよ」
きゃっきゃと戯れる二人の様子を、ロザリアはほほえましそうに眺めているが、ロザリアとジョアンの反応も大差が無かったことを、俺はしっかりと記憶している。
(ライカもライカだ。俺が犬と間違えた時はガチギレしたくせに……)
『ライカちゃんが十歳児にガチギレするわけないでしょ』
(耳だって、触らせてくれるようになるまで、俺はかなり時間がかかったんだぞ)
『同性と異性じゃ違うんですよ。覇王丸さんは触らせてもらえるだけいいでしょ!』
僕だって触りたいんですよ、と。
唐突に山田がキレ始めたので、俺は心に蓋をしてやり過ごした。
ヒナは子供なのでうっかり口を滑らせてしまうリスクはあるが、それでもこの様子ならば、故意に秘密をばらすようなことはしないだろう。
取りあえずは大丈夫そうだ、と。俺は胸を撫で下ろした。
評価、ブックマーク、感想などをもらえると嬉しいです。




