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進化の魔王と覚醒の覇王。 ~転生する前から世界最強~  作者: とらじ
アルバレンティア王国と神聖教会編
170/1634

神聖教会との会談(話がまとまる)

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

隔日で更新できるように頑張ります。

「――――一つ、勇者殿に解決していただきたい問題がございます」


「何だ?」


「私どもが領内で抱えている問題です。本来であれば、他国の――――勇者殿の手を借りることなく、内々で解決すべきことではあるのですが」


 そう言うと、ブレーグは法王と目線を交わし、法王が頷くのを待ってから話しはじめた。


 それは、昨日、法王から聞かされた神聖教会の内情――――獣人のことで抱えている厄介な問題のことだった。


「この世界には、二つの大陸があることをご存知ですか?」


「知っている。大きな大陸と、小さな大陸だろ?」


「はい。私どものいる大陸は小さな方の大陸、オット大陸です。この大陸では、獣人は数十名から百名ほどの小規模な集団を作り、多くは人里離れた場所に集落を形成することで生活しています」


 獣人が各地に分散している理由は、獣王という絶対的な強者がいないからだ。


 もう一つのトレンタ大陸には獣王が統治する獣人の国が存在し、獣人の大半がそこで暮らしているらしい。


「この山に囲まれた聖地キドゥーシュプカにも、先住民と呼ぶべきなのかは分かりませんが、かつては獣人の集落がありました」


 そこに、後から神聖教会の先達がやって来て、この地を聖地と呼び始めたらしい。


 今から百年以上も昔のことだ。


「最初、両者は共存していたようですが、神聖教会が勢力を拡大し、信徒の数を増やすにつれて、しだいに獣人は不毛な山岳地帯に追いやられたそうです。それでも、麓の村と細々としたやり取りはあったそうなのですが……。数年前、その関係は大きく変わりました」



 ブレーグは顔に手を押し当てると、沈痛な表情を浮かべた。


「トレンタ大陸に渡航した顧問団が魔王軍の襲撃を受けた事件と同時期に、山岳地帯で暮らす獣人たちが、急に敵対行動を取るようになったのです。獣人たちの中に魔人や竜がいたという目撃情報もあり、こちらも兵を派遣するなどして警備を固めたのですが」


 つい最近、防衛のために築いた山砦を、獣人に占拠されてしまったらしい。


 現状では、いつ麓の村が襲撃されてもおかしくない状況。


「この問題を解決せずに公式見解を覆すことは、到底、信徒の理解を得られないでしょう」


「それを、俺に解決しろってことか」


「はい。先程、勇者殿は「人間にも悪しき者がいて、獣人にも善良な者がいる」と仰いましたが、その理屈で言うならば、その反対――――悪しき獣人が善良な人間を虐げる事例も往々にしてあるはずです。勇者殿が真に中立の立場であるというのであれば、その証拠を私どもにお見せいただきたい」


 要するに、ブレーグはこう言っているわけだ。


 お前が単に獣人に肩入れしているだけではないと言うのなら、それを行動で示せと。


(オターネストで獣人のサルーキとオズをぶっ飛ばしているんだから、それだけで証拠としては十分な気もするけど……)


 やはり、そこは「実際にこの目で見たわけではない」ということなのだろう。


(まあいいか)


 正直なところ、昨日、法王からこの話を聞かされた時点で、避けては通れない問題だろうと思っていた。


 ブレーグの言うとおり、自治領内の住民が獣人の脅威に晒されている状況で、獣人に対する風当たりが弱まるような公式見解の変更は、神聖教会としては絶対にできないはずだ。


 だから、交渉が行き詰まったら、ブレーグに言われるまでもなく、交換条件や見返りとして俺から話を切りだすつもりでいたのだ。


「分かった。獣人から砦を取り返せばいいんだろ?」


 とはいえ、さすがに一人でどうにかできる問題ではない。


 俺は、会談が始まってから一言も喋っていないゲンジロウ爺さんを見た。


「爺さん、手伝ってくれるか?」


「ふむ。よかろう……と、言いたいところではあるが」


 そう言って、ゲンジロウ爺さんは護衛対象であるロザリアに視線を向ける。


 ロザリアは「分かっていますよ」と言わんばかりのすまし顔で答えた。


「私はここで留守番をしていますので、過剰な警護は不要です。剣聖の剣は、貴方が正しいと思うことのために揮われるべきでしょう」


「――――御意に」


 ロザリアの粋な計らいに、ゲンジロウ爺さんは深々と頭を下げて頷いた。


「ヒナもお手伝いします!」


 すると、ゲンジロウ爺さんに触発されたのか、突然、俺の膝の上でヒナが声高に宣言した。


 当然、神聖教会側の出席者たちが慌てふためく。


「せ、聖女様! 早まるのはお止めください!」


「早まってなんかいません! ヒナだって勇者です! 覇王丸様と一緒に旅をするのだから、これくらいの危険は日常ちゃ飯事です!」


「そんな無茶苦茶な……!」


 出席者たちが助けを求めるように、法王とブレーグを見る。


「勿論、神聖教会からも兵は出します。麓の村に駐留している兵と、大聖堂の衛兵も相当数を覇王丸さんにお預けしましょう。ヒナを護衛するには十分な数のはずです」


「そ、それならば、まあ……」


 法王の言葉に、一同が胸を撫で下ろした。


「――――ヒナ、決して無茶をしてはいけませんよ?」


「分かっています! 覇王丸様のためなら、この命、いつでも捨てる覚悟です!」


「……覇王丸さん。どうかヒナのことを」


「分かった」


 親の心子知らずとはこのことだろう。


 ヒナが法王からの忠告をガン無視したため、今まで俺のことを怨敵のごとく睨み付けていた重鎮たちまでもが、俺に「どうか聖女様の安全を」と、頭を下げてきた。


 ここにきて潮目が変わったようだ。


 俺が考えていた以上に、ヒナは神聖教会内で「お姫様扱い」をされていたらしい。


「砦を取り返せば、枢機卿も公式見解の変更に同意してくれるんだな?」


「はい。お約束いたします。――――ところで、砦を占拠した後、捕らえるなり、投降するなりした獣人の処遇は、どうするおつもりですか?」


 周囲の出席者たちがヒナの身を心配する横で、ブレーグだけは既に事後処理のことを考えているようだ。


「全員問答無用で死刑とかでなければ、そっちのルールに任せるけど。……そうだな。もし、向こうが希望するなら、労働力として大森林に連れて帰ってもいいか?」


「それは……」


 ブレーグは渋い表情で言い淀んだが、


「国外退去。よいではないですか」


「追い返したところで同じことが繰り返されるなら、民の不安は取り除けませぬ。勇者殿が引き取ってくださると言うのであれば、それに越したことはないでしょう」


 周囲の出席者が「厄介払いができる」とばかりに賛同したため、その声はかき消された。


「それじゃあ、善は急げだな。今日中に準備を整えて、明日にでも出立しよう」


 俺の発言を最後に、荒れに荒れた神聖教会との会談は終了した。

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