黒猫(豹)のハウンド
きりのよいところまで毎日投稿頑張ります。
「ハウンドだ……。うるさい奴に見つかっちまった」
山賊のおっさんがため息交じりにぼやいた。
耳まで含めれば俺の鼻下まである長身、筋肉で引き締まった体躯、黒い毛並み、そして他の何よりも目を引く猛獣の顔――――
人だかりを割って現れたのは、俺が初めて見る「獣の血が濃い」獣人だった。
「黒猫だ」
「ああん!? 誰が猫だって? 俺は黒豹の獣人だ!」
思ったことを口に出しただけなのに、いきなり因縁をつけられた。
『思ったことを、すぐ口に出すからですよ……はぁ』
(ため息をつくな。ムカつく)
山田には後で制裁をするとして、今はハウンドという獣人を宥めなければいけない。
「獣の血が濃い獣人を初めて見たんだ。悪気は無かった。許してくれ」
「お? おぉ……」
俺が素直に頭を下げると、今にも掴みかかってきそうな剣幕だったハウンドは、拍子抜けしたように口ごもった。同時に、背後の人だかりから、どよめきが上がる。
どうやら、ハウンドが俺を屈服させたと勘違いしたらしい。
「ま、まあ、分かればいいんだよ。なんだ。なかなか話の分かる奴じゃないか」
周囲の誤解に気を良くしたらしいハウンドは、先程とは打って変わって上機嫌になり、俺の背中を気安くバシバシと叩いた。その手は、指先まで黒い体毛で覆われている。
『顔だけ獣というよりは、体の骨格だけ人間といった方が正しいのかもしれませんね』
山田が冷静に分析する。
『多分、体の構造の問題で、四足歩行の動物ほど速く走ることはできないと思います』
(良いとこ取りはできないってことか)
それでも、身体能力だけなら、あらゆる面で普通の人間よりも上だろう。
「大怪我だって聞いていたけど、全然、平気そうじゃねぇか」
「回復薬を使った」
「なーるほどね。――――で、お前さん。見たところかなり強そうだけど、どうなんだよ?」
「ハウンド! もういいだろう。今、こいつをボルゾイ様の所に連れていく途中なんだ」
なかなか話の終わらないハウンドを見かねて、山賊のおっさんが口を挟んだ。
会話を邪魔されたハウンドは、不服そうに目を細める。
「なんだよ。せっかく、俺がいろいろ訊き出そうとしてるのに」
「この後、ボルゾイ様が確認することを、今、お前が訊き出す必要は無いだろう」
「――――お前、うるさいね」
「うっ……」
真顔になったハウンドに至近距離から凄まれて、山賊のおっさんは何も言い返せずに委縮してしまった。客観的に見て、とても情けない。
このまま一触即発の状態になるのかと思いきや、突然、ハウンドは破顔して笑いだした。
「なーんてな! 冗談だよ。そんじゃ、俺は森の巡回に行ってくるから」
呆気に取られている山賊のおっさんの肩を何回か叩くと、ハウンドはそのまま身を翻して、現れた時と同じように悠然と立ち去ってしまった。
「なんだ? あいつ、良い奴なのか? それとも悪い奴なのか?」
「……嫌な奴だよ」
どっと疲れたような山賊のおっさんの声を聞いて、俺はなるほどと納得した。
「それにしても、おっさんは情けなかったな」
「う、うるさいっ! ほら、さっさと行くぞ!」
その後、俺は里長であるライカの父親が待つという、集落の中で一番堅固な造りをした家に連れて行かれた。
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