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進化の魔王と覚醒の覇王。 ~転生する前から世界最強~  作者: とらじ
アルバレンティア王国と神聖教会編
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神聖教会との会談(切り札を切る)

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

隔日で更新できるように頑張ります。

 法王は小さくため息をつき、口を開いた。


「覇王丸さん?」


「何だ?」


「とても残念です。貴方とはもっと建設的な話ができると思っていました」


「こっちは建設的な話をしているつもりだよ」


「貴方がそのようなことを言うのであれば、神聖教会としても然るべき措置を取らざるを得ませんが、よろしいのですか?」


 法王の言葉に、居並ぶ出席者たちから「そうだ」と便乗する声が上がる。


 だが、俺は待ってましたとばかりに、法王の言葉に飛びついた。


「お。いいぞ。具体的にはどうするんだ?」


「それは……」


「勇者は人類の敵だと、新しい公式見解を出すのか? でも、それだと、そこにいる聖女様も人類の敵ってことになるよな?」


「馬鹿な!」


 思わず叫んでしまったという感じで、出席者の一人が声を荒げた。


「聖女様が人類の敵であるはずがない! ふざけないていただきたい!」


「ふざけるも何も、神聖教会が獣人に対してやっているのは、正にそういうことじゃねーか。獣人は一括りにするくせに、勇者は一括りにしない理由は何だよ? もし、お前らの都合じゃないと言うなら、俺が納得するような理由を言ってみろ!」


 俺が最後にほんの少しだけ語気を強めて怒鳴りつけると、神聖教会側の出席者は一様に押し黙った。


(どいつもこいつも……根性無しが)


 誰からも反論が無いのであれば、後はこの不毛な議論をさっさと終わらせるだけだ。


 俺は法王の隣に座っているヒナに目を向けると、神聖教会側に最後の一撃――――切り札を切って、トドメを刺すことにした。


「ヒナ」


「はい。何ですか?」


「人類の敵になって俺と一緒に旅をするのと、聖女様として不自由なく此処で暮らすのでは、どっちがいい?」


「覇王丸様と一緒に旅をします!」


 即答。


 正に即答だ。なんなら、俺が言い終えるよりも早く答えが返ってきた。


 あまりに想定外の出来事に、居並ぶ出席者たちは驚いて声も出ない様子。


 ゲンジロウ爺さんと法王は、さすがのポーカーフェイス。


 ロザリアだけが口元をぴくぴくと震わせて、懸命に笑いをこらえている。


「人類の敵になっちゃうけどいいか?」


「世界中が敵になっても、ヒナは覇王丸様の味方です!」


(百点満点)


 俺が思わず笑顔になって手招きすると、ヒナは周囲が止めるのも聞かずに、俺のところまで一目散に駆け寄り、抱きついてきた。


(その言葉が聞きたかったんだ。ヒナ、最高)


『十歳児の淡い恋心を政治に利用する外道』


(何とでも言え)


 とにかく、これで神聖教会側に打つ手は無くなった。


 元々、世界を救うために召喚された勇者と敵対すること自体、神聖教会にとってはリスクの高い行為なのだ。


 それなのに、弾劾する対象に、自分たちが聖女と祭り上げていたヒナまで含まれてしまったら、信徒からの「何故?」という疑問にさえ、まともな回答ができなくなる。


 自己矛盾と自縄自縛で、身動きが取れなくなるのだ。


「俺とヒナとこっちにいるゲンジロウ爺さんは、いわゆる同郷なんだよ。しかも、俺はヒナの命の恩人なんだ。だから、あんたたちよりも、俺の言うことを聞く。本人も希望していることだし、ヒナは俺が連れて行くぞ」


「そ、そんなことを認められるはずが……!」


「認めるも何も、勇者本人が魔王を倒すために旅立ちたいと望んでいるんだ。それを妨害するなんて、神聖教会はどっちの味方だって話になるぞ? 勇者を政治利用するなんて、とんでもない話だよなあ?」


「そのとおりです!」


 ヒナが俺の膝の上に座り、悪女のようなドヤ顔で神聖教会の出席者たちを眺めている。


 純粋無垢な聖女様から、まさかの裏切りを受けた神聖教会側の重鎮たちは、絶望の底に突き落とされたような顔をしていた。実際、ヒナを孫のように可愛がっていたのだろう。


 それを裏切られちゃって。


 正直、面白すぎる。


 見れば、ロザリアは自分の手の甲をつねって、痛みで笑いを堪えようとしていた。


(ロザリアはゲラだな。間違いない)


『そんな分析はいいから、早く話をまとめてください』


 山田の声に促されて、俺は法王に話しかけた。


「なあ、法王様」


「何でしょうか?」


「もう分かっていると思うけど、神聖教会側には二つの選択肢がある。俺たちと敵対するか、逆に俺たちを支援するかだ」


 敵対を選ぶのであれば、俺たちは勇者と聖女の肩書きをフルに活用して、神聖教会の評判を地に落とすことになる。これは、ヒナがこちら側にいる以上、神聖教会は圧倒的に不利だ。


 逆に支援を選ぶのであれば、聖女であるヒナの活躍は、そのまま神聖教会の名声につながる。俺たちも神聖教会の支援を受けられれば旅が楽になる。ウィンウィンだ。


「どっちが神聖教会にとって良いことなのか、考えるまでもないよな?」


「ゆ、勇者殿を支援すれば、神聖教会を貶めるような噂の流布は止めていただけるのですかな?」


「それは、あんたたちが公式見解をどうするかによる。当たり前だろ」


 横から口出しをしてきた出席者の一人に、俺はぴしゃりと釘を刺した。


「……覇王丸さん。貴方の要求は、公式見解の完全な撤回ではなく訂正――――例えば、すべての獣人が敵ではないと言い換えるものでもよいのですか?」


「いいぞ。人間にも悪い奴はいるし、獣人にも善い奴はいるってことだからな。そっちにも体裁ってものがあるだろうし、それでも全然構わない」


「そうですか」


 法王は頷いたきり、しばらく考え込むように瞑目していたが、やがてゆっくりとブレーグを見た。


「ブレーグ枢機卿」


「はい」


「私はこうなってしまった以上、我々が折れるより他に道は無いと考えます」


 法王の言葉に、神聖教会側の出席者は落胆のため息をついた。


 だが、反対の言葉を口にする者はいない。


「ですが、貴方の気持ちを無視して公式見解を覆すことは、私にはできません。貴方の率直な意見を聞かせてほしい」


「はい」


 ブレーグは頷き、何か物言いたげな視線を俺に向けた後、諦めたようにため息をついた。

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