神聖教会との会談(会話の主導権を握る)
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
隔日で更新できるように頑張ります。
「残念ながら、私たちにはそんな獣人が本当にいたのかどうか、判断がつきません。ついでに言えば、貴方が本当に魔王軍の指揮官を倒したのかどうかも」
「そんなの、俺たちがオターネストで助けた爵位持ちの元執政官がいくらでも証言してくれるよ。だからこそ、アルバレンティア王国の王様も俺のことを勇者だと認めてくれたんだ。その前提を疑うってことは、友好国の王様を疑うことになるけどいいのか? 実の娘が、この場にいるんだぞ?」
そう言って、俺がわざとらしくロザリアを一瞥すると、俺に突っかかってきた神聖教会側の出席者は、苦虫を噛み潰したように低く呻いた。
「む……そうですな。先程の発言は撤回いたします」
「その方がいいな。ロザリア、さっきの発言は聞かなかったことにしてやってくれよ」
「はぁ……。そうですね。では、そのように」
ロザリアは呆れたように俺を見たが、言われるがまま、素直に頷いた。
(後で何か文句を言われそうだけど……)
話に乗っかってくれるのであれば、今はありがたく利用させてもらうべきだろう。
ロザリアは「この場にいる」だけで有効なカードになる。
少なくとも、第三者的立場の立会人がいることで、神聖教会側は後から「言った」「言わない」の水かけ論に持ち込むことができない。
それに、事前に釘を刺されたとおり、ロザリアは表向きには中立の立場を保っているものの、消極的な方法であれば俺の味方をしてくれるようだ。
先程もロザリアがちゃんと「不問にします」という態度を取ってくれたため、神聖教会側の失言という形で会話を終わらせることができた。
これが「全然、問題視していません」という態度だったら、失言が帳消しになっていたところだ。
『おかげで優位に立ちましたね』
(そうだな)
会話のイニシアチブを取り続けるのは、口喧嘩の必勝法の一つだ。
そして、優位に立ったら一気に畳みかける。
「俺が言いたいのは、すべての獣人が人類の敵ではないってことだ。ちゃんと話が通じて、一緒に戦ってくれる獣人もいる。現に、俺が世話になった大森林の獣人は、魔王軍に勧誘されてもそれを突っぱねていたし、俺に全面的に協力すると約束もしてくれた。そういう獣人は、探せばきっと他にもいる」
「……」
「でも、神聖教会の公式見解が邪魔……というか、足枷になっているんだ。人類の側に付くことを、獣人に躊躇させている。この大陸に散らばっている少なくない数の獣人が、敵になるか、味方になるか、神聖教会の対応一つでこの戦争の行方が大きく変わるんだぞ? 背中を守ってもらうのと、背中を刺されるの、どっちがいいかなんて考えるまでもないだろ?」
「……」
俺が反論しにくいところを攻めているせいか、神聖教会側の出席者は聞き役に徹している。
相手の反応が無いのはつまらないので、俺は大きめの爆弾を投下することにした。
「もし、人類に友好的な獣人のことまで敵だというのなら、俺は神聖教会と敵対するぞ」
「なっ」
旗色が悪くなり、押し黙っていた神聖教会側の面々も、これにはさすがに血相を変えた。
「獣人の仲間を集めて魔王軍と戦いながら、勇者の名の下に、神聖教会の公式見解は真っ赤な嘘だと世界中に広めてやる。実際に魔王軍と戦う獣人の姿を見た人たちは、どっちを信じるんだろうな?」
目の前の事実と、単なる言葉に過ぎない公式見解。
結果は「百聞は一見に如かず」になるはずだ。
ヒナが俺のことを命の恩人と慕っているように。
俺がライカに恩義を感じているように。
助けてもらったという事実は、存外、重く心に残る。
確かな行動は、薄っぺらい言葉では覆せないのだ。
それでも神聖教会の公式見解を信じる者はいるだろうが、そこまで敬虔な信徒はせいぜい自治領とその周辺地域にしか存在しないはず。
つまり、俺たちが活躍すればするほど、神聖教会の公式見解は自治領周辺の限られた地域に封じ込められることになる。それは結果として、神聖教会の布教の妨げになるだろう。
神聖教会側にとっては、この上もなく大きな痛手のはずだ。
「そ、そんな脅しのような真似を……」
「あんたたちが、もしもの話をされても困ると言ったから、俺も覚悟を決めたんじゃないか」
「ぐむ……それは……」
「もしもの話でいいなら、俺もその方が良かったんだけどなー。あー残念だわー」
『相手の神経を逆撫でするのが天才的にうまいですね』
(まあな)
相手を怒らせたり、イラつかせたりするのも、口喧嘩の常套手段だ。
それに、俺は口で負けそうになったら手を出すので、ガチの喧嘩では負けたことがない。
(口喧嘩の弱い奴は心を折られる。強い奴は骨を折られる。ムカつく奴は両方折られる)
『絶対に戦いたくない』
それはともかく、俺の挑発的な物言いに、神聖教会側は明らかに動揺していた。
昨日の食事会から一転、ここまで険悪な雰囲気になるとは思っていなかったのだろう。
小声で「無礼すぎる」「何様のつもりだ」などという言葉が聞こえてくるが、面と向かって俺に言ってくる者は誰もいない。
迂闊なことを言って俺に噛みつかれるのも、それが原因で責任を取る羽目になるのも嫌なのだろう。
自ずと皆の視線は、最高責任者である法王に集中した。
評価、ブックマーク、感想などをもらえると嬉しいです。




