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仲間でも家族でもないと公式が言ってるだけ

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です。

「――――そういえば、たしかに、いなかったな」


 綺麗さっぱり、アホ兄弟のことが頭から抜け落ちていて、気がつかなかった。


「二人はどうだ?」


 そう言って、隣にいるライカとヒナに目をやると、


「ヒナも気付きませんでした!」


「あの……その、ごめんなさい……」


 ヒナはまったく悪びれた様子も無く、ライカはいかにも申し訳なさそうに、それぞれアホ兄弟を失念していたことを認めた。


「二人とも、忘れていたみたいだな」


「そんな! 姉さんたち、酷いじゃないですか!」


「俺たちは、血よりも濃い絆で結ばれた、家族同然の仲間じゃないんですか!?」


 アホ兄弟はショックを受けた様子で、ライカに詰め寄っている。


 ヒナではなく、ライカに詰め寄っているのは、多分、ヒナに詰め寄ると、八割くらいの確率で「仲間でも家族でもありません!」と一刀両断にされてしまうことを、理解しているからだろう。いちいち小賢しい奴らだ。


「……というか、トレンタ大陸に渡る時、ゲンジロウ爺さんも、ハウンドも、マキちゃんも、誰も何も言わなかったぞ?」


「そんな馬鹿な!?」


「あり得ないでしょ!」


 アホ兄弟は驚愕に目を見開いたが、そもそも誰か一人でも言及する者がいたら、置き去りになどするわけがない。


「この際だから、はっきり言うけど。お前ら、誰からも――――


「うおおおおぉぉぉ!」


「言わせるかぁぁぁ!」


 俺が死刑宣告をするより早く、二人が必死の形相で飛び掛かってきたので、俺は乱暴に突き飛ばして、撃退した。


「お前ら、マジでいい加減にしろよ」


「……は?」


「なんで、俺たちが悪いみたいな流れになっているんですか!?」


 俺たちは被害者ですよ? と。


 納得いかない様子のアホ兄弟に、俺は改めて告げた。


「――――誰も、お前たちのことを、仲間だと思っていないんだよ」


「言いやがった! しっかり、丁寧に、子供に言い聞かせるように、殺しにきた!」


「俺たちから、心の拠り所すら奪うつもりか!」


 鬼! 悪魔! 魔王! と。人聞きの悪い言葉を連呼するアホ兄弟を引っ叩いて黙らせて、脱線しまくった話題を元に戻す。


「お前ら、そんなことで文句を言いに来たのかよ?」


「違いますよ! 俺たちは別のことで怒っているんです!」


「どうして、俺たちが獣人国に派遣される部隊に配属されていないんですか!?」


 返ってきた答えは、意外なものだった。


「お前ら、最前線の戦場に行きたいのか?」


「当たり前です!」


「前線に行かなきゃ、魔王軍と戦ったことにならないじゃないですか!」


「そうだけどさ」


 とてもではないが、第一軍港を独立派に襲撃された時、真っ先に寝返ろうとしたクソ野郎のセリフとは思えない。


「もしかして、故郷の村で何かあったのか?」


 ふと思い付いたことを尋ねてみると、途端にアホ兄弟の表情が明るくなった。


「分かりますか!」


「さすがは兄貴だ! 俺たちのことを、いつも分かってくれている!」


「マジかよ……。嫌だなぁ……」


 正直、分かりたくはなかったが、当たってしまったものは、仕方がない。


 詳しい話を聞いたところ、里帰りした故郷の村で、アホ兄弟は何日も「勇者の仲間」として威張り散らし、食っちゃ寝するだけの自堕落な生活を送っていたところ、最終的に「足手まといの雑用係のくせに、偉そうにするな」と追放されてしまったのだそうだ。


「お前ら……。生まれ故郷を何回追放されるつもりだよ」


 普通、追放された奴が最後に行き着く場所が、生まれ故郷のはずだ。そこを二回も追放されるとは、率直に言って、人として終わっているとしか言いようがない。


 しかも、雑用係だと言い当てられているのが悲しすぎる。何の誤解もされておらず、正しく理解された上で追放されているので、アホ兄弟のクズさが浮き彫りになってしまっている。


「故郷の奴らを見返してやるんです!」


「手柄を立てて、故郷に俺たちの像を建てさせるんだ!」


「手の込んだ嫌がらせは止めろ」


 もし、そんな呪いの像を建ててしまったら、像の前がゴミ捨て場になることは確定なので、村の景観を損ねてしまう。


「でもまあ、その心意気は買ってやるよ。第二陣には放り込んでやるから、楽しみにしてろ」


「本当ですか!?」


「さすが兄貴だ!」


 やったぜ! ひゃっほう! と。


 無邪気に喜ぶ二人を眺めながら、俺は口元に悪い笑みを浮かべていた。


「あの……何か、酷いこととか……考えていませんよね?」


 ライカだけが俺の表情に気づき、不安そうに尋ねてきたが、考えているに決まっている。


 にっこりとほほ笑む俺を見て、ライカは(いろいろと察したらしく)苦笑いを浮かべた。

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