仲間を送り出す 二
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明日です。
「お前、まだこの港町を拠点にしていたのか?」
「ソユちゃんと一緒にいたいですし。なんなら、この港町をザントブルグ王国の新しい王都にするのもありかなって」
「無しだぞ」
そんなことをすれば、各方面との新たな軋轢が生じて、補佐役のクイスリンクがストレスで胃に穴を開けることになってしまう。
「そういえば、クイスリンクは?」
「お腹が痛いって、寝ています」
「……大丈夫なのか?」
どうやら、既に胃に穴が開いている可能性もありそうだ。
クイスリンクも、先のリッタに負けず劣らずの「貧乏くじを引く男」なので、後でライカに回復薬を届けさせた方が良いかもしれない。
俺は気を取り直して、ソレイユの方に目を向けた。
(……うん。やっぱり、そこはかとなくエロい)
スタイルの良い女性が厚ぼったい祭服を着ているのは、やはり良いものだ。軽装のハミットとは異なり、ソレイユは手荷物を抱えている。
「あれ、ソレ……ソユちゃんは、もしかして、従軍するのか?」
「……いやもう別に、私のことを何と呼んでくださっても構わないんですけど」
なるべくハミットを不機嫌にしないでほしい、後で文句を言われるのは私なのだから、と。
一応、俺に釘を刺した上で、ハミットは質問に答えた。
「そうですね。とはいえ、戦地には赴きませんけど。ここよりも戦線に近い場所……多分、獣人国の王都で、終戦まで毎日、回復薬を作ることになりそうです」
「そうかぁ」
竜王の治療が終わったら、今度は獣人国に移動して回復薬を大量生産することになるとは、ソレイユもなかなかハードな毎日を送っているようだ。治癒魔法を習得すれば、一生、食いはぐれることが無いというのは、オット大陸における一般常識だが、必ずしも悠々自適に暮らせるわけではないらしい。
「有能だと大変だな」
「その言い方だと、私が無能みたいに聞こえるんですけど……?」
ハミットが不満を隠そうともせず口を挟んでくるが、こいつはこいつで、大物感というか、人の上に立つ器の大きさを感じさせることがある。
「ハミットにはハミットの良いところがあるから……」
「そうだよ。ハミちゃんは、やればできるんだから……」
「……なんか、嫌な感じ」
俺とソレイユが、明らかに誰かを慰める時の口調で、取って付けたようなエールを送ると、さすがに軽んじられていることに気が付いたらしく、ハミットは仏頂面で呟いた。
その後は、ハミットの戴冠式に出席することを約束したり、他にも色々な雑談を交わしたりして、二人とは別れた。
魔王討伐後の予定が入ることが、なんとなく嬉しかった。
*
「兄貴ぃ!」
「これはいったい、どういうことなんですか!」
ハミットとソレイユが立ち去った後、今度は入れ替わりでアホ兄弟がやって来た。
相変わらずと言うべきか、今回もご立腹のようだ。
(面倒だなぁ……)
正直、アホ兄弟が俺のところに直談判に来る時は、ろくでもない内容であることが大半なので、まともに相手をする気が起きない。
「……というか、お前らのこと、久しぶりに見たような気がするけど。ここにいたっけ?」
「いたっけ? じゃないんだよ!」
「あんたが、俺たちのことを置いていったんでしょうが!」
どうやら、先日、魔王軍との最終決戦の前に、皆でまとまった休暇を取った際、アホ兄弟が故郷の村での里帰りを終えて、第一軍港に戻って来るよりも先に、俺たちはさっさとトレンタ大陸に戻ってしまったらしい。
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