ライカとお風呂(後編)
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その後、恥ずかしさが麻痺したのか、今更だと腹を括ったのかは知らないが、ライカが俺の背中を流すと言いだしたので、洗ってもらうことにした。
洗い場に座り込み、俺の手拭いを一生懸命に泡立てているライカを覗き見る。
(風俗嬢みたい……って言ったら、きっと怒られるな)
さすがの俺にも、それくらいの分別はある。
「ライカの尻尾。普段はモフモフなのに、濡れるとちょっと残念な感じになるな」
「こっちを見ないでください!」
結局、怒られてしまった。
「まったく……。覇王丸さんは、もっと、女性に、対する、気遣いとか、配慮とか、そういうものが、必要だと思います」
「ちょっと足りてないな?」
「かなり、足りてないと、思います」
泡立てた手拭いで俺の背中を擦りながら、ライカは拗ねたような声で答えた。
「覇王丸さん、今日、ヒナちゃんと会えて嬉しかったですか?」
「んー。まあ、そうだな。勇者を探す手間が省けたという意味では嬉しかったかな」
「ヒナちゃん、覇王丸さんのことが大好きみたいでしたけど」
「命の恩人だと思っているみたいだからな。ヒナくらいの年齢の女の子は、そういうものじゃないのか?」
「ヒナちゃんと……き、キスしましたよね?」
「不意打ちだったし、あそこで拒否するのは可哀そうだろ。なんだ? ……焼きもちか?」
「……焼きもちです」
不貞腐れたように呟くと、ライカは驚きの行動に出た。
俺の背中に覆いかぶさるようにして、抱きついてきたのだ。
言うまでもなく、俺は裸だし、ライカも裸だ。
背中に、押し付けられた胸の感触がある。
「ら、ライカ?」
「覇王丸さんは……胸の大きな女の人が好きだって言いましたけど」
ライカは絞り出すように、俺の耳元で囁いた。
吐息が耳をくすぐる。
「私の胸は、まだ大きくないですけど」
見れば、俺の首に回されたライカの腕が微かに震えていた。
「それでも、胸が無いわけじゃないんですよ?」
「お、おお。そうだな」
「あと何年かしたら……きっと、もっと、大きくなるので、楽しみにしていてください」
「分かった。楽しみにしてる」
俺は完全に無抵抗で、頷くしかなかった。
(色仕掛けなんか、自分には通用しないと思っていたが……)
全然、そんなことはなかったようだ。
情けないことに、ライカに胸を押し付けられた瞬間、俺は金縛りにあったように身動きが取れなくなってしまった。
(そもそも、裸の女におっぱいを押し付けられて、平静でいられる男がいるのかという話だ)
普通に考えれば、いるはずがない。
だって、ライカは客観的に見ても美少女なのだから。
「これからは私のことを、もっと、異性として意識してくだざいね。気軽にお風呂に入ったりするのは、親子というか、兄妹というか……。そういうのとは違うんですから」
「分かった」
「分かってくれればいいんです。……ふふ。なんだか覇王丸さんに対して初めて優位を取れたような気がします」
「初めてではないだろ」
優位そのものは、わりと頻繁に取られているような気がする。
ただ、俺としてもやられっぱなしで終わるわけにはいかない。
俺はライカの腕を掴むと、やや強引に引っ張った。
「ひゃっ!」
背中は泡でつるつるなので、ライカは文字通り滑るように引っ張られて、そのままストンと俺の方に尻と尻尾を向けて座り込んだ。
「まあ、それはそれとしてだ」
「ひっ!」
俺は逃げようとするライカの肩をがっちりと抑えつけて、動けないようにする。
「今度は俺が背中を洗ってやろう」
「じ、自分でできますからっ」
「遠慮するなよ。せっかくだし、尻尾も洗ってやるから」
「や、やめてください! 尻尾はその、び、敏感なので……!」
俺は抗議の声を無視して、泡立った手拭いでライカの尻尾を軽くひと撫でした。
濡れそぼっているため、モフモフした毛で守られていない尻尾の本体が敏感だというのは、どうやら本当のことらしい。
今まで一度も聞いたことのないライカの艶っぽい声が、浴室内に響き渡った。
「おぬしら……。まさかとは思うが、湯を汚しておらんだろうな?」
余談ではあるが、風呂から出た後、応接室で待っていたゲンジロウ爺さんに声をかけると、そんなセリフとともに疑惑の眼差しを向けられた。
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