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仲間を送り出す 一

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

 二日後、獣人国の北側の戦線に向かう人類軍の部隊が、わざわざ迎えに来てくれた獣人国の兵士の先導の下、いよいよ出発することになった。


 今までの旅の過程で、俺たちと行動や目的を共にしたことのある人たちが、入れ替わり立ち替わり、挨拶に来てくれる。


「では、私たちも行って参ります」


 神聖教会から人類軍に派遣された衛兵を代表して、リッタが俺に挨拶をした。


 思えば、こいつも苦難が絶えない奴だった。


 味方になる前のワタシとオレサマに攻撃されて、ヒナを庇った結果、大怪我をして死にかけたことにはじまり、霊薬を届けるために訪れたアルバレンティア王国の港町で、南部軍の反乱に巻き込まれた挙げ句、町を包囲されて帰るに帰れなくなったり、それ以降は完全に霊薬の運び役と化し、聖女の書いた追加注文の手紙を法王に届けるという、両者の板挟みになることが確実な損な役回りを何度も押し付けられたり――――とにかく、不運な奴なのである。


 そんな「必ず貧乏クジを引かされる男」であるリッタを、人類軍と魔王軍の最前線に送り込むのは、少しだけ気が引けたのだが、さりとて、運が悪いという理由で留守番を命じることもできないので、結局、俺は笑顔で送り出すことにした。


「頑張ってこいよ。味方の不運をお前が吸い取って、人類軍の勝利に貢献してくれ」


「私にそのような能力はありませんが、最善を尽くしたいと思います。聖女様と、勇者様と、すべての人類のために」(キリッ)


 リッタは聖女であるヒナの前で、カッコいいことを言ったつもりのようだが、残念ながら、ヒナの心には届かなかったようだ。


「……」(よそ見)


「おい、ヒナ」


「――――あ。頑張ってください!」


 どこからどう見ても、まったく話を聞いていなかったヒナから、取って付けたような激励の言葉を受け取ると、リッタは(それでも嬉しそうに)笑顔を浮かべた。


 俺とリッタの隣では、ライカが別の衛兵たちに激励の言葉を送って、一人ずつ順番に自作の回復薬を手渡している。


 実は、あの衛兵の男たちも、かつては獣人に対して否定的な価値観を持っており、それが原因でライカとはひと悶着あったのだが、今ではすっかり打ち解けており、両者の間には何の蟠りも無いように見受けられる。


(ヒナに塩対応されるリッタとの対比が、悲しすぎる……)


 ここでも一人だけ貧乏クジを引いた形になってしまったが、リッタは腐ることなく、最後に俺に対して感謝の言葉を告げると、出発を待つ部隊の列に戻って行った。


     *


「勇者様!」


「ん?」


 リッタをはじめとする神聖協会の衛兵が隊列に戻った後、すぐ後ろから声を掛けられたので振り返れば、そこにはハミットとソレイユの元修道女コンビの姿があった。


 最初に会った時は二人とも大聖堂にお勤めする修道女だったが、なんやかんやあって、今やハミットはトレンタ大陸で復興を果たしたザントブルグ王国の女王(戴冠内定)であり、ソレイユは治癒魔法を習得して神官に出世しただけではなく、竜王の治療にも参加して竜の巣とのパイプまで作ってしまった神聖教会における若手のホープである。


「なんだ。ハミットと、ソユちゃんか」


「なんで、ソユちゃんだけ親しい呼び方をするんですか!」


 私のこともハミちゃんと呼んでください、と。


 ハミットは抗議してくるが、こいつは俺の第五夫人の座を虎視眈々と狙っていることが判明しており、時には自分の肩書をフル活用して、存在しない既成事実を捏造してまで外堀を埋めようとする油断も隙も無い奴なので、家内安全のためにも気を抜くことはできないのだ。


 というか、それ以前に、一国の女王になることが内定している相手を「ハミちゃん」などと呼んでいたら、ただでさえ無いに等しい王の威厳と、復興間もない国の権威が、金箔のように薄っぺらくなってしまう。

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