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不確定要素

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です。

 最終局面になった途端、考えなければいけないことが、一気に増えてしまった。


 獣人国の北側の国境線で睨み合う、人類軍と魔王軍の部隊の配置について。


 魔王と一対一の直接対決に持ち込むための、進攻ルートについて。


 同行メンバーの選定について。


 仕切り直しのできない一発勝負なので、作戦決行の日取りも重要になる。


(これに加えて、逮捕された山田のことも考えないといけないのか……)


 山積みになっていく問題にうんざりしながら、獣人国の王城で目覚めた俺は、


「弟が国境線の近くから、どんどん魔王領の奥地に向かって進んでいるようだ。このままでは近日中にもエガリテルヴァンジュ王国本土にある町や村を襲うかもしれない」


 ウォルフから追加の懸案事項を教えてもらい、更に頭を抱える羽目になった。


 ウォルフの弟――――要するに、前獣王レグルスのことだ。


「これ、どういう影響があるんだ? 俺たちにとっては、好都合なのか? 逆なのか?」


「良い影響と、悪い影響がある」


 寝起きで頭が働かないため、俺が単刀直入に尋ねると、ウォルフは簡潔に答えてくれた。


「良い影響は、言うまでもなく、放置できないこと。魔王軍は弟一人のために、本来、戦場になることを想定していなかった場所に、部隊を派兵しなければならなくなる」


 しかも、相手は前獣王のレグルスだ。それなりの規模の部隊を送り込まなければ、簡単に返り討ちにされてしまうだろう。


「魔王軍の戦力が分散するってことだな」


「そうだ。そして、悪い影響は、弟の行動が予測できない以上、それに対応せざるを得ない魔王軍の行動も、予測しにくくなってしまうこと」


 要するに、レグルスの突発的な行動が巡り巡って、人類軍に不利な結果をもたらすかもしれないということだ。風が吹いただけで、桶屋が儲かることまで完璧に予想するのは、予知能力でもない限り不可能だと言える。


「勿論、それが良い結果をもたらすこともあるだろうがね」


「いずれにしても、不確定要素になるってことか。……まあ、諦めるしかないよな」


「どうしようもないね」


 現状、レグルスを指示通りに動かすことは、至難の業どころか、不可能だ。台風や竜巻の進路を、操ることができないのと同じ。レグルスは天災のような人災なのだ。


「結局のところ、あいつ、どこに向かっているんだ?」


「エガリテルヴァンジュ王国の本土に向かっているとしか……。もしかしたら、君よりも先に魔王を倒そうとしているのかもしれないよ」


 ウォルフは冗談めかして言ったが、もし、本当にそうしてくれるのなら、俺としてはありがたい限りだ。たとえ魔王を倒せなくても、レグルスの存在はそれだけで脅威になる。


 もし、その進撃を阻むために、レグルスに対抗し得る戦力――――魔臣宰相が立ちはだかるようなことがあれば、期せずして最も厄介な敵の足止めを、レグルスが買ってくれたのと同じ結果になる。あの二人が戦ったら、どちらに軍配が上がるのか、まったく想像できないが。


「我が軍としては、なるべく消耗戦は避けたい。なので、できるだけ長く、魔王軍を国境線に張り付かせておきたいわけだが……。現状、魔王軍の方が数で上回っているので、早めに動き出さないか、心配ではある」


「そこは、大丈夫だと思うけど……。向こうの指揮官も、どちらかと言えば戦争をやめたいと考えているっぽいから、すぐには仕掛けてこないと思うけどな」


 俺は、先日のバンクとのやり取りを思い出しながら答えた。


 もし、フエーゴが前線に残っていれば、どうなるか予想は難しくなっていたが、今は怪我の治療のために前線を離れているはずなので、今後はバンク主導の下、魔王軍全体が守備的な行動を取るのではないだろうか?


「まあ、互いの部隊の規模が拮抗していればいるほど、簡単には攻めにくくなるよな。できるだけ早く援軍を送るように、人類軍の指揮官に伝えておくよ」


「よろしく頼む」


 フィオレに確認したところ、俺が意識を失っていたのは、自分で予想したよりも短い五日間だった。その間、国境付近で魔王軍との小競り合いは起きなかったようだ。


「拠点に戻ったら、体調が万全な状態に回復するのを待って、こっちも動くよ。そうしたら、ひと月もしないうちに、魔王との決着がつく。それまでは、頑張って持ち堪えてくれ」


「承知した。――――君が負ける心配は、しなくてよいのだろうね?」


「しなくていいぞ。負けないから」


 俺が即答すると、ウォルフは嬉しそうに笑った。


「今まで、君のその根拠の無い自信に、何度、助けられたことか。ここに至るまで、難しい局面の連続だったが……不思議と辛いと思ったことは一度も無い。むしろ、楽しいと感じることもあったくらいだ」


 君のおかげでね、と。


 ウォルフが手を差し出してきたので、俺はその手を握った。


「吉報を待っているよ。君の望むままに、すべてを終わらせて来るといい」


「戦争だけ終わらせてくるよ。その後、世界を平和にするのは、王様の仕事だろ?」


 全部、押し付けるなと言わんばかりに、俺が反論すると、


「違いない。それならば、私はゆっくり休むとしよう。じきに、眠る暇も無いほど、明るくて忙しい未来が訪れるだろうからね」


 ウォルフは最後まで上機嫌だった。

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