事の経緯 二
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もしかして、山田は、俺に反逆罪の容疑が飛び火することを恐れて、嘘の供述をしたのではないだろうか?
――――自分が冤罪になることも承知の上で。
(何、やってんだよ、あいつは……!)
いったん、その可能性に気づいたら、そうだとしか思えなくなってしまった。
内心の焦りを誤魔化すようにして、拳をぐっと握り締める。
俺を庇って逮捕されるなど、まったくもって「らしくない」行動だ。
というか、この流れで俺を庇うということは、山田は機密文書を違法にコピーした反逆罪の犯人として、ナチュラルに俺を疑っているということになる。
それはそれで、かなりムカつく。ぶっ飛ばしてやりたいほどだ。
だが――――
ぶっ飛ばすためには、まず、山田の容疑を晴らさなければならない。
そのために、俺はどうすべき――――何をすべきなのだろうか?
はっきり言ってしまえば、俺には知識が無い。
この世界で俺にできることは、何も無いに等しい。
何しろ、俺はこの部屋の外がどうなっているかすら、把握していないのだ。
過去に、部屋の外に興味を示したら、山田から「出るな」と釘を刺されたことがあるので、何かしら――――取り返しのつかないことが、起こりそうではあるのだが。
(例えば……。跡形も無く消滅してしまうとか?)
それも、あり得ない話ではない。
そして、あり得ない話ではない以上、軽はずみに試すこともできない。
状況としては、まだそこまで追い詰められているわけではないのだ。
(……やっぱり。ここは、マキちゃんやマルマルに相談してみるか)
特に適材適所で考えるなら、マルマルが最も適任だろう。
というか、あいつが機密文書を違法に閲覧した真犯人なのだから、責任を取らせる意味でも手伝わせるべきだ。
「リリエル、焦る気持ちは分かるけど、いったん落ち着こうぜ」
俺は、心細さから泣きべそをかくリリエルの肩に手を置き、励ました。
「最悪の場合は帰らない……ということは、まだ「最悪の場合」じゃないってことだ。山田は生きている。逮捕されているだけだ」
「そうなの?」
「そうさ。だから、俺たちは俺たちにできることをしよう」
リリエルが泣き止んだのを確認すると、俺は気になっていたことを質問した。
「まず、リリエルはどうして山田の仕事部屋にいるんだ? 一人で来たのか? この部屋って誰でも自由に出入りできるのか?」
「以前、お兄ちゃんが、私のことも登録してくれたから……。登録した人じゃないと、絶対に入れないって……。鍵も予備を渡してくれて」
そう言って、リリエルはカードキーとおぼしきものを見せてくれた。
(今更だけど、管理意識が低すぎる……)
恐らく、山田がしたことは、公用車を私用で使うレベルの「やってはいけないこと」だが、今回ばかりは、その意識の低さと、妹に対する甘やかしが、役に立ったと言えるだろう。
「ここに来たら、駄目だった?」
「いや。リリエルが来てくれたから、俺も状況を把握することができた」
ありがとう、と。
俺が褒めると、リリエルは安心した様子で微笑んだ。
「でも、今後は頻繁に出入りしない方が良いかもしれない。予備の鍵も、他の人には見せない方が良いと思うぞ」
更に言えば、室内にある山田のデバイスにも、軽率に触れない方が良いだろう。
そこまで警戒したところで、入退室の記録を調べられてしまえば、リリエルが出入りしていたことは一発でバレてしまうのだが、それはもう、仕方のないことだ。
(……というか、もう、バレてる可能性が高いんだよな)
入退室の記録は、言ってしまえば出勤・退勤のタイムカードのようなものだ。簡単に調べられるだろうし、調べない理由も無い。
もしかしたら、とっくにすべてを把握されているが、その上で、リリエルに関してはお目こぼしされているのかもしれない。だとしたら、なおのこと、大人しくしていた方が良いという結論になってしまうわけだが。
「一応、勇者の仲間に、力になれそうな奴(というか、捕まるべき真犯人)がいるから、相談してみるよ。だから、リリエルも最後まで希望を捨てるな」
いいな、と。
俺が、頭を撫でながら励ますと、リリエルは「分かった」と小さく頷いた。
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