ライカとお風呂(中編)
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ゲンジロウ爺さん曰く、来賓用の施設というものは、その国の国威を示す――――要するに見栄を張るために豪華な造りであることが多いらしいのだが、迎賓館の風呂もご多分に漏れず立派なものだった。
噴水というか、子供用プールというか、豪華な見た目の広くて浅い浴槽に、なみなみとお湯が張ってある。
しかも、掛け湯の段階で気づいたのだが、下手な温泉では勝負にならないほどの薬用効果があるようだ。
(このジワジワと染み込む感じ……もしかして、回復薬か?)
恐ろしく贅沢なことではあるが、どうやら、湯船に回復薬が入っているらしい。
「これは……疲れが取れるなあ」
湯船に浸かった途端、全身を包み込む温かさと心地よさに、思わずため息をついてしまった。
こんな贅沢は、治癒魔法の使い手を数多く抱える神聖教会にしかできないだろう。
「覇王丸さん……? いますか?」
背後で声がしたので振り返ると、湯煙の向こうには、裸になって長い髪を手拭いでまとめたライカが立っていた。
「ポニーテールじゃないのか」
「髪ですか? 背中に貼り付くと気持ち悪いので手拭いでまとめました」
「ふーん。結構、印象が変わるんだな」
頭に巻き付けた手拭いから獣の耳がぴょこんと飛び出ており、なんとも愛らしい。
そして、髪の毛をまとめるのに手拭いを使っているため、ライカは両手と尻尾を使って胸と股間を隠していた。
「尻尾にそんな使い方があったとは……」
「あ、あんまりジロジロ見ないでくださいっ」
「分かった分かった。見ないから。それより、早く風呂に入ってみろよ。凄いぞ」
「……あっさり引き下がられると、それはそれで複雑なんですけど」
俺が水面をばしゃばしゃ叩いて急かすと、ライカは不満そうに掛け湯をして、裸を見られないように素早く湯船に浸かった。
「あ、凄い。これ回復薬ですか?」
「多分な」
「ふわぁ……。これは疲れが取れますねえ……」
(俺と同じことを言ってる)
ライカはあまりの気持ち良さに目を瞑り、ほぅ……と、ため息をついた。
「神聖教会のお風呂って、全部こうなっているんでしょうか?」
「さあ、どうかな? 全部は無理じゃないか?」
だが、治癒魔法を覚えたばかりの修道士や修道女が、練習の一環として湯船に治癒魔法をかけるだけでよいのであれば、可能であるような気もする。
「後で使用人に聞いてみるか」
「そうですねぇ」
俺とライカは、ぼんやりと上の空で会話をしながら、体の芯まで温まった。
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