百獣について
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「なあ、爺さん。あいつ、治療が必要だよな?」
「ん、あ、ああ……。そうだな。……なぜ、第三者のような口ぶりなのか、理解に苦しむが」
話し掛けられたバンクが、ドン引きした様子で返答する。
「それなら、あいつを前線から退かせて、腕の治療に専念させろ」
そうすれば、この戦争が終わるまで、フエーゴが戦線に復帰することはないだろう。
「あいつの不在中は、第一方面軍も爺さんが指揮すればいいじゃないか」
「そんな単純な問題ではないのだが……。まあ……言いたいことは分かった」
「回復薬は? あるか?」
「ある」
「そっか。――――治るといいな?」
ようやく、こちらの意図を察したらしいバンクに笑い掛けると、俺は改めて、フエーゴへの伝言を依頼した。
「あいつが目を覚ましたら、伝えておいてくれよ。戦争が終わった後でも、個人的な喧嘩ならいつでも受けてやるって。だから、俺に勝ちたければ、体を鍛えておけって」
「分かった……。いや、しかし……」
鍛えたところで勝てるのか? と。
わりと真剣に質問されてしまったが、それは俺の知ったことではない。
*
「お疲れ様」
「ん?」
両軍が撤退の準備を進める中、フィオレから声を掛けられて、俺は後ろを振り返った。
「相変わらず、無茶な戦い方をするのね」
フィオレは俺の隣に立つと、背中から腰に手を回し、寄り掛かれと言わんばかりにぴたりと体をくっつけてきた。
「――――どうかした?」
「いや……。お前、こんなに優しかったっけ?」
「は?」
「いや。なんでもないです」
一瞬で、視線が怒気を孕んだものに変わったので、俺は謝罪と感謝の言葉を同時に告げて、フィオレに少しだけ体重を預けた。
「私の魔法を封じないでほしいのだけど」
「ああ、悪い悪い」
どうやら、フィオレはフィジカルの強さで俺の体を支えているわけではなく、飛翔魔法の応用で、俺の体を軽くしているらしい。必要以上に体を密着させてきたのも、俺へのご褒美的なスキンシップではなく、飛翔魔法を使いやすくするためのようだ。
「それで、今回は戻ってくるまでに、どれくらい掛かりそうなの?」
「数日ってところかな。……三日か、四日か、それくらい」
「そう」
「悪いけどさ……」
「ご心配無く。戦闘の準備は、人類軍の指揮官と協議してちゃんと進めておくから。ゆっくり休みなさい」
至れり尽くせりなフィオレの言葉に、俺は安堵して、思わず覚醒状態を解除してしまいそうになった。さすがは優秀な副官様だ。サルーキがいまだにフィオレのことを上官扱いしたり、ウォルフが正式に副官として登用したがったりする理由が良く分かる。
「元の状態に戻らないの? ――――何か嬉しいことでもあった?」
「ちょっと、サルーキに聞きたいことがあるんだ」
「俺にか?」
俺が口元をニヤニヤさせながら答えると、サルーキが怪訝そうに聞き返してきた。
「百獣のことなんだけど」
「百獣がどうした?」
「詳しく知りたいなって」
「……何だ。そんなことか」
特に楽しくもない話だぞ、と。
そう前置きをした後で、サルーキは獣人国に伝わる百獣の話を教えてくれた。
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