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一番キツい攻撃

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明日です。

「もう片方の腕の炎も、消してやるよ」


「やめろ! 触るな!」


 フエーゴは、俺の手を振りほどこうと暴れたが、単純な腕力で俺に勝てるはずがない。


 立て続けに両腕の炎を消されてしまったフエーゴは、怒り心頭の表情で腰に手を伸ばすと、取り出した短剣の切っ先を、俺に突き立てようとした。


 顔を目掛けて振り下ろされた短剣は、身長差の関係で俺の肩口に深々と突き刺さった。


 筋肉が切り裂かれ、傷口から果汁のように、ぽたぽたと血が溢れ出てくる。


 だが、それで終わりだ。


 どれもこれも、俺から命を奪う致命的な一撃にはならない。


「どうした? 終わりか? これで気は済んだか?」


 痩せ我慢で口元に薄笑いを浮かべながら、俺は突き刺さった短剣を握り締め、傷口から強引に抜き取った。途端に堰を切ったように流れ出す血液も、すぐに止まってしまう。


 傷口は――――既に塞がっていた。


「化け物め!」


「そうさ。俺は化け物なんだ。お前が命を引き換えにするくらいじゃ、勝てねーんだよ」


「くそっ!」


 万策尽きたフエーゴは、自棄になって、俺の体を何度も力任せに叩いた。


 怒り、悲しみ、屈辱、情けなさ――――様々な感情を抑え切れずに溢れ出た涙が、フエーゴの頬を伝って、ぼろぼろと零れ落ちる。


 正直、俺にとっては、これが一番キツい攻撃だった。


「部下から恐れられようと! 人間どもから恨まれようと! 俺にとっては尊敬できる、ただ一人の父親だったのだ! それを貴様が……! 貴様が殺したんだ!」


「……そうだな。俺が殺した。それは、間違いない」


「なのに! なぜ、貴様は俺を殺さない!? 俺は、貴様を殺そうとしているのだぞ!? 俺が弱いから、情けをかけるつもりか! それは侮辱だ!」


「お前を殺すことで、戦争が早く終わるのなら、喜んでそうしているよ」


 赤髪侯と戦った時は、そのような形での決着しかあり得なかった。


 竜の巣に大敗を喫して規模を縮小したとはいえ、当時の第一方面軍を退けるには、奇襲を仕掛けて、組織のトップである赤髪侯を討ち取るより他に、方法が無かったのだ。


 でも、今は違う。


「お前を殺しても、この戦争は終わらない。それどころか、終戦はきっと遠くなる。魔王を倒しても、戦争が終わらなくなるかもしれない」


 だから、殺さない、と。


 俺が伝えると、フエーゴは困惑したような顔をした。無理もない。短時間のうちに色々なことが起こりすぎて、頭の中はぐちゃぐちゃだろう。


「人類と魔人の間にできた百年分の溝は、きっと、俺たちが思っているよりずっと深いんだ。ちょっとの努力で埋まるようなものじゃないし、これは、今後百年とか、あるいはもっと長い時間を掛けて、少しずつ埋めていかなくちゃいけない」


 そのために必要なのが、両者の対等な関係――――要するに、パワーバランスだ。


 どちらかが、どちらかを一方的に支配する関係であってはいけない。


「もし、俺が魔王を倒した時、お前らがろくな抵抗もできないボロボロの状態だったら、人類軍は止まると思うか? 反対に、もし、魔王が俺を倒した時に、人類軍が総崩れのボロボロな状態だったら、お前らは止まるか?」


 答えは、どちらも否だ。


 きっと、人類軍も魔王軍も、相手が自分たちにとっての脅威ではなくなるまで徹底的に叩きのめし、弱らせようとするだろう。


「それじゃ駄目なんだよ。当たり前だけど、戦争を止めることで得られる利益よりも、続けることで得られる利益の方が大きかったら、戦争は終わらない」


 ――――戦争を続けるのか?


 ――――それとも終わらせるのか?


 その最終的な判断を下すのは、国のトップである為政者だ。どんなに終戦を望む市井の声が大きくても、それは為政者にとって、判断材料の一つでしかない。


 総合的に考えて、得るものの方が多いのであれば、多少の犠牲は想定内ということにして、国の利益が優先されることは、十分にあり得る。


 だからこそ、人類軍と魔王軍のパワーバランスが大事なのである。

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