前哨戦 禁じ手
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「正面突破で俺を倒せる可能性があるのは、今のところ魔王だけだぞ。お前じゃ無理だ」
「うるさいっ!」
「話を聞けよ……」
そもそも、俺の足下にはバンクが倒れているのに、何の躊躇もなく攻撃しすぎなのだ。
俺はタイミングを見計らって、飛んでくる火の玉が消える寸前に、無属性の魔力を引っ込めて横に飛び退いた。
標的を見失った火の玉は、倒れているバンクのすぐ近くに着弾する。
「――――っ!」
ようやく、自分の攻撃がバンクに当たるかもしれないと気付いたフエーゴは、我に返って攻撃の手を止めた。
「そういうところだぞ。今のお前に足りていないのは」
「黙れっ!」
横っ飛びから態勢を整えて、俺がフエーゴに突進すると、今度はよく狙いを定めた一撃が、一直線に飛んできた。
俺はそれを――――無属性の魔力を使わずに、手で叩き消した。
驚くようなことではない。魔力で魔法を無効化できることに気づくまでは、俺はこんなゴリ押しのパワープレイで、魔王軍の魔法に対処してきたのだ。
高熱に焼かれて、掌がジクジクと痛みはじめる。これも懐かしい感覚だ。
「な!?」
「そんなに驚くことじゃない。俺は怪我の治りが早いから、こういう戦い方もできるんだ」
そう言って、フエーゴに掌を開いて見せる。
火傷を負ったはずの掌は――――ほんの数秒で完治していた。
「ほら。もう治った」
「……!」
「そして、今の俺はこんなこともできるぞ」
言いながら、土の魔法を発動する。あまり戦闘で使う機会は無いが、覚醒した状態の俺は、土の魔法もある程度は使いこなせるのだ。ちなみに通常時でも、ライカが一撃で叩き潰せない程度には、泥団子を固くすることができるようになっている。
見る見るうちに、フエーゴの背後と左右で、地面がせり上がって防壁を形成する。
ただし、これはフエーゴを守るためのものではない。
「――――しまった!」
逃げ道を塞がれたことにフエーゴが気づいた時には、もう手遅れだった。
俺は再び無属性の魔力を展開してフエーゴの魔法を封じると、バンクにしたのと同じように顔面を鷲掴みにして――――後ろの土の防壁にぶち当てた。
フエーゴの体は防壁を突き破って、後方の地面に転がる。
見た目こそ派手だが、そこまでのダメージは無いだろう。俺の作り出した防壁は、バンクの作り出したものよりも強度で劣るし、何より地面ほど分厚くない。
だが、このまま戦っても勝てないと思い知らせるには、十分だったはずだ。
俺としては、これで終わりにするつもりだった。
だが――――
「くそ! なぜだ! なぜ、勝てない!」
フエーゴは現実を受け入れず、這いつくばったまま、悔しそうに地面を何度も殴り付けた。
「もう、退けよ。いったん仕切り直しでいいだろ」
「見逃すつもりか!? どこまで侮辱すれば気が済む!」
「悔しいと思うなら、もっと強くなって、また挑戦してこい」
「黙れ! ――――まだ、俺は負けていない!」
そう言って、立ち上がったフエーゴの全身を、魔力が包み込んだ。
また、何らかの魔法を使うつもりだろうか?
(正攻法じゃ無理だって……)
覚醒した状態の俺は、四聖竜であるモースの全力の火の魔法さえ耐え凌いだのだ。実力的に何枚も落ちるフエーゴの魔法が、通用するとはとても思えない。
「……いかん」
「ん?」
不意に足下から声が聞こえたので、目をやれば、意識を取り戻したらしいバンクが、顔面蒼白になってフエーゴを見ていた。
「やめろ……! その魔法を使っては駄目だ……!」
掠れる声でバンクが叫んだ時、俺の目の前で、フエーゴの両腕が燃え上がった。
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